2024/10/6

定年制廃止企業の事例

 厚生労働省が9月30日に「高齢者の活躍に取り組む企業の事例」を公表した。高齢者が活躍できるよう、役職定年、定年制の見直し、ジョブ型人事制度の導入等に取り組む14社の事例である。定年制の見直しといっても、対象のほとんどが大企業ということもあって、65歳定年制の事例が多い。

 その中で注目したいのは定年制を廃止したYKKの事例である。一般に大企業は定年制廃止には極めて消極的だ。令和5年「高年齢者雇用状況等報告」によると、定年制を廃止している企業は、301人以上ではわずか0.7%である。そのような状況にあって、2021年に定年制を廃止したYKKは話題となった。どのような取り組みをしているのか、事例のポイントを整理してみる。

≪定年制廃止の背景≫
・経営理念にある「公正」の実施と、海外売り上げが9割を占め、海外勤務の社員も多数在籍するグローバルな環境のもとで、定年制はそぐわない。
≪実施まで≫
・2011年から社長をプロジェクトリーダーとする、働き方"変革への挑戦"プロジェクトを立ち上げ、その内容を定期的に発信するなど時間をかけて、定年制廃止への理解を深めていった。そのため、定年制廃止の導入にあたって社内での大きな混乱はなかった。
・定年を廃止すると、いつまで働くのかという退職時期に関する問題が出てくるが、運用ルールは走りながら作っていこうという考えでスタートした。
≪人事制度の特徴≫
・2007年から役割を軸とした成果・実力主義を導入しており、そのような成果・実力主義の土壌があることが、定年制廃止がスムーズに進んだ要因として大きい。
・在級年数と評価を掛け合わせることで、昇格・登用・降格・降職という役割見直しを運用している。役割見直しの動きは、上のポストほど激しい。これにより、定年制廃止と組織の新陳代謝を両立するようにしている。
≪高齢社員のキャリア面談≫
・社員には自分でキャリアをどこまで続けるのか、具体的なプランを作成し、各自で決めてもらうようにしている。
・65歳をキャリアの節目として、社員が65歳になる前にその後の将来設計をできるよう、複数回のキャリア面談の仕組みを設けている。
≪高齢社員の仕事内容・処遇≫
・65歳以前と以後で、同じ職務内容であれば処遇は同水準としている。
・65歳になると全く違う内容に変わるのではなく、本人の希望を踏まえながら仕事をアサインする。基本的にこれまで行ってきた仕事と同様のものに取り組んでもらう。
≪退職金≫
・定年廃止前と同じく60歳まで積み立て、定年廃止前に入社した社員は65歳到達時に、定年廃止後に入社した社員は退職時に退職金を受け取る。
≪現状と課題≫
・定年制廃止によって60代の退職者は減ったが、転職が当たり前という世相の影響もあり、全体では急激に人が増えてはいない。
・定年制廃止から3年経ち、2024年度より初めて65歳以上の社員が勤務を開始している。継続勤務者と退職者がそれぞれ5割であり、人員構成としても問題はない。
・課題としては、退職するタイミングを自ら決定できない社員への対応。これまでは、定年が実質的な退職ルートとなっていたが、それがなくなった今、客観的な指標が必要と考えている。
・ポストの問題など、中堅社員(特に幹部候補生となるような優秀な人財)のモチベーション維持も課題である。

 以上をまとめると、定年制廃止のポイントとして次のものが挙げられる。

①なぜ定年制を廃止する必要があるのか、背景や理由、目的の明確化
②周到な準備による社員の理解の浸透
③年功によらない実力主義の土壌
④組織の新陳代謝を促す人事制度
⑤高齢社員のキャリア明確化

 この中でも特に重要なのは③④だろう。端的に言えば、「今」の実力で処遇が決まる制度・文化があるかである。そうすれば、高齢社員が高給をもらいながら会社に居続けるという事態は避けられる。どんなに高齢であっても、そのパフォーマンスに見合った処遇であれば、若手社員も文句は言わないはずだ。定年制廃止に踏み切ったYKKも、まだその途上にあると思われる。定年制廃止の影響が今後さらにどうなるか、同社に注目しておきたい。     

 


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