2024/8/18

部門間異動の必要性と方法

 以前ほどではないにしても、大企業ではジョブローテーションという形で、社員にいろいろな部門・部署で経験を積ませることが多い。一方、中小企業の場合は、人が少ないこともあって、ジョブローテーションには消極的で、部門をまたいでの異動というのはあまり見られない。

 部門間の異動が少ないことには、特定部門で長期間働くことによる専門性・効率性の向上や、部門内のチームワーク・信頼関係が形成されることによる組織の安定性の向上、異動に伴う教育コストの削減等のメリットがある一方で、以下のようなデメリットもある。

1. 視野の狭小
 社員が他部門の視点や知識を得る機会が減少し、社員個人、さらに組織全体としての視野が狭くなる。自部門の利害が優先され、全社最適の視点が欠ける。イノベーションも生まれにくくなる。

2. キャリアの停滞
 同じ部門で長期間働くとマンネリ化が起き、キャリアの停滞やモチベーションの低下につながる。社員の視点から見ると成長が阻害され、会社の視点から見ると将来の経営者が育たないリスクがある。

3. 組織の柔軟性の低下
 似たような思考・行動様式の人材ばかりとなり、組織としての柔軟性が低下する可能性がある。その結果、市場環境やビジネスニーズが変化した際に、迅速に対応することが難しくなる。

 このようなデメリットを克服するために、やはり部門間の異動は必要である。部門間の異動を促進する仕組みとしては、ジョブローテーション以外に、各部門が空いているポジションを公募し、社員が自主的に応募をする社内公募制や、社員が自ら異動を希望し、相手部門が認めることで異動が成立する社内FAなどが代表的である。最近は、本業以外の2割程度を別の部門で働く社内副業も注目されている。ただ、いずれも多種多様な部門・部署があり、人的資源の豊富な大企業でないと、実際の運用は難しい。

 では、どのような方法が考えられるか。ヒントとなるのがこのほど三井住友海上で導入される「人事交流」である。8月16日の日経新聞によると、

・全社員の約6分の1にあたる2000人を対象
・1週間以内の業務体験をしてもらう
・営業や保険金支払い部門、商品開発や経営企画、マーケティング、資産運用など300部署を用意
・育児や介護等で転勤が難しい人や、地方勤務の経験しかない人にも応募を促す

 とのことだ。1週間程度の業務体験であれば中小企業でも可能だろう。短期間なので、専門性が身に着くわけではないが、少なくとも上記のデメリット抑制には役立つはずだ。

 また、自分の仕事の前工程や後工程を知ることで、自身の専門性の深化やモチベーションアップにもなる。さらに、他部門の仕事を知ること、他部門の人に自部門の仕事を知ってもらうことで、部門間の風通しがよくなり、協働性が向上し、会社全体のパフォーマンスの向上につながる、といったメリットも期待できる。

 「自分が稼いだカネで他部門を食べさせてやっている」と豪語する営業マンに、たまに出会うことがある。その自負は認めるが、正直、残念な気持ちにもなる。このような人に1週間でもよいので、総務や人事の仕事を経験してほしいと思う。それは、本人の成長になるはずだ。

 経験の場として、「人事交流」のような仕組みを考えてみてはいかがだろうか。     

 


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