2021/11/14

年次有給休暇の取得率は伸び悩み?

年次有給休暇

 先日公表された厚生労働省の2021年就労条件総合調査によると、2020年に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数を除く)は労働者1 人平均で17.9日(2019年は18.0日。以下カッコ内は2019年の数値)、うち労働者が取得した日数は10.1日(10.1日)となっている。取得率は 56.6%(56.3%)で1984年以降、過去最高とのことだ。

 過去最高は喜ぶべきだが、前年比0.3ポイントしか伸びていないのが気がかりである。政府は2025年までに70%とすることを目標に掲げているが、達成はかなり困難、いやはっきり言って絶望的な状況である。

 取得率を規模別に見ると、

・1,000人以上 60.8%(63.1%)
・300~999人 56.3%(53.1%)
・100~299人 55.2%(52.3%)
・30~99人 51.2%(51.1%)

 と大規模企業で低下が見られ、大企業が全体の伸びを押し下げていることがわかる。

 産業別では、上位3つは以下の通り。

①電気・ガス・熱供給・水道業 73.3%(76.8%)
②情報通信業 65.1%)(64.0%)
③鉱業、採石業、砂利採取業 63.9%(63.9%)

 電気・ガス・熱供給・水道業は、前年からトップを維持しているものの3.5ポイント減少している。下位3つは、

・宿泊業、飲食サービス業 45.0%(41.2%)
・複合サービス事業 47.7%(72.7%)
・卸売業、小売業 48.6%(44.7%)

 となっており、複合サービス事業は前年から25ポイントも減少している。複合サービス事業とは、郵便局や、農協・漁協などの協同組合が該当するのだが、減少の要因はよくわからない。

 他に、前年から減少したのは、学術研究・専門技術サービス業(4.9ポイント減)、金融業・保険業(3.9ポイント減)などである。産業別では、これらが押し下げ要因となったようである。

 過去の年休取得率を見ると、1988年に50.0%だったのが1992年には56.1%まで増加し、そこで頭打ちとなって以降、2005年に46.6%にまで低下し、しばらく47%~49%をうろついた後、2015年から再び増加し現在に至っている。つまり、波形を描いているわけである。

年次有給休暇

 年休というと、昔はずっと取れてなく、近年になって徐々に取得が進んでいる印象があるが、以前にも取得率の高かった時期があるのだ。90年代にいったん高まった取得率が低くなったのは、バブルが崩壊し、リストラにより少ない人員で業務を回さなければならなくなり、休暇が取りづらくなったためではないかと思う。

 2020年に増加傾向が鈍ったのも、人手不足による多忙で、休暇が取りづらくなったからかもしれない。一方でコロナという特殊要因も指摘できる。たとえば、医療機関などが多忙により年休を取れなくなったといった理由も考えられるが、医療・福祉は前年の53.4%から58.0%に増えており、そのようなことはなさそうだ。また、逆に休業を余儀なくされ、年休取得の必要性が低下したとの理屈もあるが、典型例の宿泊業・飲食サービス業では上記の通り3.8ポイント増えている。

 このように、2020年の取得率の伸び悩みが、人手不足等の構造的な要因によるものなのか、それともコロナによる一時的なものなのかはわからないが、このまま高止まりすることも十分にありうるということだ。30年前とは年休に対する考え方も異なるので、再び同様に低下していくとは思えないが、このまま伸び悩みが続くことは考えられる。来年以降の数値に注目しておきたい。            

 


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