2021/3/21
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転勤回避権 |
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3月17日の日経新聞に、三菱ケミカルが導入する転勤回避権についての記事があった。社員の希望で転勤を回避できる制度で、正式には「勤務地継続制度」というものだ。 制度のポイントは次の通りである。 ・対象は国内勤務の管理職 ・申請により、3年間、現在と異なる都道府県への転勤を回避できる ・制度を使えるのは2回 つまり、最長6年間は転勤を避けられることになる。たとえば、子どもが中学に入学した社員が制度を利用すれば、子どもが高校を卒業するまで転勤しなくてよいということだ。 4月からの新人事制度の導入に合わせてのことだそうだ。同社が1月にリリースした「新たな人事制度の導入について」という書面によれば、新人事制度の主な内容は、「透明性のある処遇・報酬」「主体的なキャリア形成」「多様性の促進と支援」の3点を軸としている。このうち、勤務地継続制度は「主体的なキャリア形成」に該当する施策である。「主体的なキャリア形成」には、他に、 ・人事異動を原則、公募制にする ・キャリアチャレンジ(若手社員の希望部署への選考)の導入 ・本人同意のない一般社員の転勤を廃止 ・「勤務地希望」による個々の従業員のライフプランへの配慮 が掲げられている。 注目したいのは、人事異動を公募制にするという点だ。つまり、勤務地継続制度を利用するまでの流れとしては、 ①勤務地、仕事を公募する。 ②公募で決まらない場合に会社が異動命令を出す。 ③命令を受けた社員のうち、どうしても異動を避けたい社員が制度を利用する。 という形になる。よって、①の公募によりポストがすべて決まれば、制度を活用しなくてもよくなる。もっとも、そううまくはいかないので、異動命令により「決断」を迫られる社員は出てくるに違いないが、①のステップがあることで、従来に比べればそういった社員は減るはずだ。なかなかうまく考えられた仕組みである。 もう1つ気になるのは、対象を国内勤務者に限っていることだ。同社は海外勤務も相当あると思われるが、さすがに海外勤務者を対象とするのは、人材がうまく回らなくなってリスクが高すぎるということだろうか。 ともあれ、同社では、希望しない転勤はしなくてよいのが原則となった。社員の個々のニーズに寄り添うという意味で進歩的な仕組みである。ただ、一方で、現状に安住して成長の機会を失ってしまうことや、内向きの社員が増えるといった懸念も残る。 ヒトは現状を維持したい、もっと言うとラクをしたいと考えてしまう生き物だ。転勤を避けることが、本当にその人にとってよいことなのかはわからない。強制的に環境を変えることも、ときには大切だろう。会社としては、本人に転勤の必要性やメリットを説明した上で、判断してもらうという姿勢も必要と思う。 にほんブログ村に参加しています。
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