2023/3/5

人的資本経営の”人的資本”とは

 人事労務の世界の最近の流行語としてトップに挙げられるのは“人的資本経営”ではないだろうか。もっとも、人事労務関係というよりは、経営全般にかかわるキーワードという方が適切だろう。それくらい大きなテーマである。

 経済産業省によると、「人的資本経営とは、人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義している。

 一読して「なるほどそうか」と納得する人はごく少数だろう。おそらく、「人材を『資本』として捉え」の部分が、最もピンと来ないと思う。この点が人的資本経営を理解するカギとなりそうなので、もう少し深めてみよう。

 そもそも、人的資本経営が注目されるきっかけとなったのは、2020年9月に経済産業省が公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(人材版伊藤レポート)である(なお、伊藤レポートの伊藤とは、研究会の座長を務めた経営学の大家、伊藤邦雄氏のこと)。この伊藤レポートは、人的資本経営のバイブルともいえるもので、人的資本経営の実現に向けて、経営者、取締役会、投資家が果たすべき役割と取るべきアクションを示しており、2022年には、その具体策を提示した「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書(人材版伊藤レポート2.0)を出している。

 さて、人材版伊藤レポートでは、人材を「資本」として捉えることについて、次のように述べている。

・これまで人材は、「人的資源(Human Resource)」と捉えられることが多かった。
・この表現は、「既に持っているものを使う、今あるものを消費する」とのニュアンスがある。
・このため、マネジメントの方向性も、「いかにその使用・消費を管理するか」という考え方となり、人材に投じる資金も「費用(コスト)」として捉えられることとなる。
・しかし、人材は、教育や研修、日々の業務等を通じて成長するものである。
・また、現有の人材だけでなく、事業環境の変化や経営戦略の転換に伴って、必要な人材を外部から登用・確保することもある。
・このため、人材を「人的資本(Human Capital)」として捉え、「状況に応じて必要な人的資本を確保する」という考え方へと転換する必要がある。
・これにより、マネジメントの方向性も「管理」から、人材の成長を通じた「価値創造」へと変わることとなり、人材に投じる資金は価値創造に向けた「投資」となる。

 「資源ではなく資本、なるほど、そういうことか」とうなずくところがあるものの、やはり何かしっくりこない点もある。というのも、人材は消費するものではなく、資産として育てるものという考え方は、少なくとも日本の多くの企業に浸透していると思われるからだ。

 たとえば、人材を”人財”と表記する会社はよくある。これは、ヒトは材料ではなく財産であるとの意思表明で、まさに、資源ではなく資本との考え方である。また、ヒトは成長するものとの認識で、OJTを中心に手塩にかけて長期的に社員を育ててきたのが、日本企業の強みだったはずだ。

 さて、このような指摘をすると、筆者が反人的資本経営の立場にあるように思われるかもしれないが、決してそうではない。

 かなり前に指摘(本コラムの第1回!)をしたのだが、ヒトを財産と捉える会社は多いものの、実態は「?」が付く会社が多いのも事実だ。その大きな要因に、具体的にどのように実践すればよいかわからないというのがあると思う。今回の人的資本経営は、ヒトを財産とするための方策や実現に向けての目標指標を明確化するものと理解し、大いに期待している。
    

 


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