2022/8/14

初任給42万円を考える

 サイバーエージェント社の初任給引上げが話題となっている。2023年春の新卒社員の初任給を42万円にするものだ。ちなみに2022年は34万円で、今でも十分に高いのに、それをさらに高くしようというわけである。

 厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、2021年の大卒の初任給は225,400円なので、単純に初任給が42万円であれば、ほとんど倍近くあり、確かに高いといえる。

 ただ、ネットの記事では、「残業代込みである」「賞与も含まれている」といったカラクリを指摘し、高給は見せかけであるとの論調が強い。さらに、その残業代というのが80時間の固定残業代を含んでいることから、違法ではないかとの指摘もある。

 実際のところをサイバーエージェントのHPで確認してみると、
・42万円/月(年俸制504万円)
・固定残業代の相当時間:時間外80.0時間/月、深夜46.0時間/月
 とあり、80時間の残業代込みというのは間違いない。

 それでは、80時間の残業代分を除くと、給料はいくらになるかだが、ざっと計算して26万円ほどだ。つまり、飛び抜けて高いとは言えなくなる。

 同社HPによれば、平均残業時間は31時間/月とのことで、実際に80時間まで働くことは多くはなさそうだが、残業の多い仕事に就いた人には高給とは思えない仕組みとなる。

 そして、この42万円(年俸504万円)に賞与も含まれているというのが事実とすれば、“高給感”はさらに低下する。賞与についてはHPでも触れておらず、実際、賞与込みなのかとも思うが、7月26日の日経新聞では、「(年俸制)とは別に業績連動賞与を社員の評価に応じて支払っている」との記事がある。これが新入社員にも適用されるのかどうかは不明で、賞与支給の有無は定かでない。

 さて、次に80時間の固定残業代は違法ではないかとの指摘だ。周知の通り、2019年に導入された時間外労働の上限規制により、年間を通じて毎月80時間もの残業をさせることはできないわけだが、それを認めるような賃金を制度としてよいかである。

 これについては、月80時間の残業自体は合法であり、これを給与計算の効率性から固定給化することは問題はないと考えられる。もちろん、残業時間の管理を適正に行うことが大前提である。おそらくサイバー社も行政の確認を得ていると思われる。したがって、たとえば120時間分を固定残業代とするような仕組みはNGとなるだろう。

 実務の上でもう1つ気になるのは、既存の社員、特に最近新卒で入社した社員の給与をどうするかである。

 上記の日経新聞では、「2年目以降は評価次第で初任給を下回る年収になる可能性もある。22年春以前に入社し、月給が42万円に達していない社員については、スキルや業績を評価したうえで個別に調整する」とあり、一律に新入社員以上とするようなことはしないようだ。したがって、自分よりも高給の新人を指導する若手社員が出てくるかもしれない。

 一方で23年入社の人も安穏とはしていられない。記事にもあるように次年度は下がる可能性があるからだ。同社HPにも「半期初に目標を立て、半期末に目標の達成度を評価します。 評価に応じて給与・年俸を見直します」と明記している。

 もっとも、そういうことを懸念する人、安定を求めるとか、年功序列を重視するような人はサイバー社を選ばないし、サイバー社も選んでほしくはないだろう。初任給42万円には、優秀な人材を確保するだけでなく、会社に合った人材を選ぶ意味合いもあると思われる。           

 


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