2022/5/1

同一労働同一賃金の現在

 2020年4月にパートタイム・有期雇用労働法が施行され、いわゆる同一労働同一賃金が法制化された。2021年4月からは中小企業にも適用されている。

 おそらく近年の労働法の改正の中でも、時間外労働時間の上限規制を定めた2019年の労働基準法改正と並んでAクラスのインパクトを与えるものであった。…はずなのだが、折しも襲来したコロナ騒動で、それどころではなくなったというのが実情ではないだろうか。

 施行後2年を経過したこともあいまって、新聞等で同一労働同一賃金の見出しを目にすることもほとんどなくなった。あれほど騒いだ割に何とも寂しい、というのも変だが、現在の運用状況はどうなっているのだろうか、4月21日に東京都産業労働局が公表した「令和3年度パートタイマーに関する実態調査」で確認してみよう。

 まずは待遇格差の実態である。主な制度・手当が有るか、正社員とパートタイマーとを比べてみると以下の通りだ(事業所調査。カッコ内がパートタイマー)

・定期的な昇給80.9%(43.8%)
・退職金82.9%(8.9%)
・通勤手当96.9%(94.2%)
・家族手当・扶養手当62.1%(7.6%)
・住宅手当53.1%(2.9%)
・慶弔休暇94.7%(59.9%)
・病気休職88.1%(52.5%)

 これを見ると、通勤手当以外は待遇差が大きいことがわかる。特に退職金の差が著しい。ちなみに本設問では「賞与」がないが、別の設問でパートタイマーに支給している企業割合は36.4%となっている。賞与支給も待遇差が大きいことが想定される。

 このような実態に関し、当のパートタイマーはどのように考えているかといえば、

「正社員との間に何らかの不合理な待遇差がある」69.2%
「不合理な待遇の差があるとは思わない」26.9%

 と7割のパートタイマーが、待遇差があると回答している。

 どのような点に不合理な待遇差があると感じるかについては、「賞与」が49.6%と最も多く、次いで「退職金」(33.7%)、「基本給」(27.4%)、「手当の支給(家族手当、住宅手当等)」(20.3%)、「休暇制度」(19.5%)となっており、やはり報酬面での待遇差が気になっていることがわかる。

 それでは、企業はこれにどう対応しているのだろうか。処遇改善に向けての取り組みについて、直近5年間に正社員とパートタイマーとの間の不合理な待遇差をなくすための取組を「実施した」は29.6%であり、「実施する予定である」は11.5%であった。「待遇差に関する点検を行い、不合理な待遇差がないことを確認した」は32.9%、「実施していない」は23.9%で、4分の1の企業は未対応ということだ。

 実施済みまたは実施予定の具体的な取組について、上位を見ると、

「休暇制度の見直し」(44.5%)
「待遇差に関する根拠の明確化」(41.7%)
「正社員への転換制度の導入・見直し」(36.5%)
「基本給の引き上げ・算定方法の変更」(36.0%)

 となっている。パートタイマーのニーズの高いと考えられる「賞与の支給対象の拡大」は29.4%、「退職金の支給対象の拡大」は16.6%と相対的に低い。企業としては、人件費増大に直結しない取り組みが中心となっていると言えそうだ。

 パート有期労働法では、パートタイマーから待遇差の説明を求められた場合に、企業には説明義務がある。これに関して、待遇差を求められた経験があるかどうかだが、「ある」は3.7% 「ない」94.4%となっており、説明を求めるパートタイマーは皆無に近い。予想はしていたが、パートタイマーという弱い立場に加えて、自己主張が苦手な日本人には、事実上“使えない仕組み”となっている。

 以上、同一労働同一賃金の現状を確認してみたが、施行前に戦々恐々とした割には、対応がおろそかになっている企業もまだ多いようだ。待遇差の説明を求めるパートタイマーもほとんどいない。

 だからといって安心は禁物だ。全国の都道府県労働局では、パート有期労働法に基づく行政指導を行なっており、2020年度には3,752件もの是正指導がなされている。コロナ禍においてそれどころではないとの気持ちはわかるが、それとこれとは別であるとの認識も必要である。            

 


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