2021年2月、イギリス最高裁判所は、ウーバー運転手に労働者としての権利を認めた。これを受け、ウーバー社はイギリス国内7万人の運転手を自社の労働者とした。
日本では原則として、ウーバー配達員などのギグワーカーやITエンジニアなどのフリーランスを労働法令上の労働者として認めていない。ただ、労働者に準じて保護しようとする動きは進んでおり、その1つが労災保険の加入である。
厚生労働省は、9月1日から労災保険の特別加入制度の対象を拡大し、自転車を使用して貨物運送事業を行う者とITフリーランスを特別加入できるようにした。
これまで、自動車や原付を使っての運送事業は、一人親方として労災の特別加入を認めていたが、これを「自転車」にも拡大したわけである。
このところ、街を歩けば自転車配達員を目にしないことはない、というくらい自転車によるデリバリーは日常化している。いかに早く届けるかが大切なので、事故も多いはずだ。治療費の全額、休業補償などが受けられるメリットは大きい。保険料(給付基礎日額の1.2%)は自己負担とはいえ、労災加入に一定のニーズはあるだろう。
もう1つのITフリーランスだが、対象は情報処理システムやソフトウェア、ウェブの設計、開発、管理などのIT専門職だ。筆者もその一人だが、PCを利用した一般的なデスクワーク業務は対象外である。
ITフリーランスが加入できるようになったのは、それはそれでよいことなのだが、自転車配達員に比べて需要があるかといえばやや疑問である。ITフリーランスの大半は自宅で仕事をしていると思われる。通勤災害も労災の対象となるが、通勤災害はほとんど発生しないはずだ(なお、自転車配達員の通勤災害は労災保険の支給対象とならない)。
在宅のデスクワークでは、業務上の傷病といっても限られるだろう。最も考えられるのは、腱鞘炎や腰痛といったことだが、これらは業務外の要素もあって認定のハードルが高く、労災と認められる可能性は低い。関係資料を取ろうとして転倒した、トイレに行こうとして階段を踏み外した(労災かどうかは微妙だが)などは、ないとはいわないがレアケースだろう。給付対象で実際にありそうなのは、業務打ち合わせに出掛けたときの交通事故くらいである。
通達によれば、「自宅等で行う場合については、特に私的行為、恣意的行為ではないことを十分に確認できた場合に業務遂行性を認める」とあるが、フリーランスの自宅での傷病自体が想定しづらい。
ということで、今回の制度改正は、自転車配達員はともかく、ITフリーランスが実際に恩恵を被ることができる機会は少ないと思われる。保険料は自転車配達員の1/4(給付基礎日額の0.3%)と低いものの、加入者は限られるのではないだろうか。