2018/12/10

同一労働同一賃金ガイドライン案固まる~その2

 
 前回に続き、同一労働同一賃金のガイドラインの原案(2016年版)と今回案の相違点を確認する。4つあるポイントのうち、2~4を説明したい。

2.短時間・有期雇用労働者の原則となる考え方および具体例は基本的に変更ないこと
 文言の修正はあるものの本質的な中身に変わりはない。原案の具体例に実務的でないものやわかりづらいものがあったので、その辺の修正を期待していたが残念である。実際の運用にあたってコアとなる部分であり、このままで確定すると具体例の解釈をめぐって混乱が起きそうだ。

3.「定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者の取扱い」を示したこと
 基本給に関する原則を示した末尾の注の部分で、以下を示した。

有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることは、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たり、短時間・有期雇用労働法第8条のその他の事情として考慮される事情に当たりうる。

 「定年再雇用者」という属性が待遇差を検討する際、「その他の事情」となることを判事した今年6月の最高裁「長澤運輸事件」を受けてのものと考えられる。つまり、定年制が賃金コストを一定限度に抑制するための制度であること、定年再雇用者は長期雇用を予定していないこと、老齢厚生年金の受給がありうることなどの事情も考慮されるということだ。

4.派遣労働者と協定対象派遣労働者の原則となる考え方および具体例を示したこと
 ここで「派遣労働者」と「協定対象派遣労働者」に分けているのは、今回の派遣法改正で、派遣労働者の賃金は派遣先の同種の業務の労働者と同一とすることが原則となり、その例外として、派遣元において、同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額と同等以上の賃金額となるよう労使協定で定められるようになったことによる。

 それはともかく、今回の指針案で最も議論を呼びそうな箇所である。なぜかというと、短時間・有期雇用労働者の原則・考え方をそのまま派遣労働者・協定対象派遣労働者に流用したため、「実務的にどうなの?」というルールがいくつか見られるからだ。

 典型的なのは派遣労働者に対する賞与で、「派遣労働者が派遣先の通常の労働者と同一の貢献であるときは、同一の賞与を支給しなければならない」とするが、こういった取扱いが実際に可能かは非常に疑問である。
 また、役職手当や単身赴任手当、地域手当などの諸手当も同一のものを支給しなければならないとするのも非現実的ではないだろうか。
 協定対象派遣労働者も含め、社宅や慶弔休暇、病気休職制度等の福利厚生、教育訓練について同一化義務を課すことに至っては、実際の運用を考えずに単にコピペをしただけなのではないかと勘繰ってしまう。
 
 このルールが確立すれば、「派遣労働者」の賃金設定は事実上困難となるため、大半は「協定対象派遣労働者」になることが予想される。「協定対象派遣労働者」であれば、賞与や諸手当について派遣先と同一にしなくてもよいからだ。
 このとき、「協定対象派遣労働者」の賃金は一定以上のものとなるので、中小企業に派遣された場合などでは、派遣先の社員よりも高賃金となる”逆格差”が起こるかもしれない。
 いずれにしても派遣料金の高騰は間違いないだろう。

 以上の指針案について、労政審では分科会での議論を経て答申を行う予定となっている。答申は年内にも行われるとのことで、おそらく、ほぼこのままの内容で確定すると思われるが、上述したように派遣労働者の項目はこれで本当に大丈夫なのかと心配ではある。


 過去記事は⇒ミニコラムもご参照ください。
 お問い合わせは⇒お問い合わせフォームをご利用ください。