兼業をしていた男性が過労でうつ病を発し、自殺に至った案件で労災が認定された。12月16日の時事通信の報道をまとめると以下の通りである。
・男性(当時60歳)は2021年5月に自殺。
・岐阜大に研究員として勤務するほか、航空測量会社でも勤務。
・岐阜大では上司から厳しい指導を受けた。
・航空測量会社では、自治体から受注した点検調査を1人で担当するなど孤立感があった。
・それぞれの心理的負荷は「中」だが、総合評価で「強」と判断された。
厚労省が公表している「業務による心理的負荷評価表」によれば、「上司から業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受けた」「複数名で担当していた業務を一人で担当するようになり、業務内容・業務量に何らかの変化があった」などが「中」の具体例に挙げられており、これに該当した可能性がある。また、「仕事が孤独で単調となった」ような場合は、総合評価を強める要素として考慮される。「中」が複数ある場合は、「強」または「中」で判断されるとしており、本件は「強」で判断されたということだ。
労災の認定にあたって以前は、1つの事業場だけでの労働時間やストレスといった業務上の負荷を評価し、判断をしていた。複数の事業場の業務上の負荷を総合的に評価する「複数業務要因災害」を認めるようになったのは2020年9月からだ。対象となる傷病は、脳・心臓疾患や精神障害などだ。本件はその最初のケースとなった。
社員がどのような理由、経緯で兼業をしていたのかは不明だ。一般に副業や兼業というのは、自らの意思で行うものだ。その観点に立てば、過労に至ったのは自己責任という考え方もできようが、種々の事情で兼業せざるを得ないケースもある。だからこそ、国もこのような「複数業務要因災害」を認めたと考えられる。
企業からすると、「自社では過労自殺するほど働かせてはいなかった」というのが正直なところだろう。記事でも、岐阜大の話として「適切に対応しており、労基署から指導を受けていない」、パスコの話として「労基署から直接的な指導はなく、詳細を確認している」とのコメントを載せている。両社の当惑の様子がうかがえる。
本件ではいずれも中程度のストレスが認定されており、その意味で責任はあると言えるが、仮にこれが、一方が「弱」で一方が「強」であった場合、「弱」会社に責任追及するのは酷となるかもしれない。一般にどのようなホワイト企業であっても、弱レベルのストレス要因となる事象はあり得るからだ。
本件を契機に厚生労働省がどのような対応をするかは不明である。現在、兼業者の健康管理に関しては、厚労省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の中で示しているが、これをさらに詳細化する可能性はある。折しも、兼業者の労働時間の通算について、健康確保のための通算は維持するものの、割増賃金の算定に関してはなくす方向で議論が進められている。これが実現化されるときに何らかの施策が定められるかもしれない。
いずれにしても企業としては、これまで以上に兼業者の健康状態を把握するよう努力が求められる。安全衛生に関しては、「最悪の事態」を常に頭の隅に置いておくことが大切である。