大手出版会社がフリーランスのライターやカメラマンの原稿料・撮影料を不当に引き下げ、下請法違反により公正取引委員会から勧告を受けたことが話題となっているが、仮に本件の委託者が資本金1000万円であったら下請法の適用はできなかった。
委託者の不当な行為に対して、より広く網をかけるのが2024年11月から施行されたフリーランス法である。
仕事を発注する側と受注する側とでは立場に大きな差がある。まして、受ける側が個人であれば、その立場は圧倒的に弱いことは容易に想像できる。フリーランス法の施行により、フリーランスへの買いたたきやハラスメントなどの不当な行為の是正が期待できるが、まずは現状を知っておくことも必要だろう。
厚生労働省と公正取引委員会が10月に公表した「フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)結果」では、フリーランス法の規定ごとに、法施行前の状況を調査している。
全般に言えるのは、委託者(発注)側とフリーランス(受注)側とでの認識のギャップである。フリーランスの方で不当な行為と思っても、発注側にそのような意識は希薄ということだ。
たとえば、フリーランス法第3条では、書面または電磁的方法による取引条件の明示を定めているが、取引条件を明示しなかったことがあるとの回答割合は、委託者が17.4%、フリーランスが44.6%となっており、30ポイント近くのギャップがある。他にも、不当な行為があったとの認識の割合は以下の通りである。
・報酬の60日以内支払い(第4条):委託者4.8%、フリーランス28.1%
・報酬の減額(第5条第1項第2号):委託者3.0%、フリーランス28.1%
・買いたたき(法第5条第1項第4号):委託者22.2%、フリーランス67.1%
・不当な経済上の利益の提供要請(第5条第2項第1号):委託者10.4%、フリーランス41.8%
・不当な給付内容の変更(第5条第2項第2号):委託者0.5%、フリーランス21.1%
被害者は深く傷ついているのに、加害者はその重大性を認識していないという「いじめの構図」にも似ている。
もっとも、委託者も意図的にいじめようとしているわけではないはずだ。そもそも、委託をする担当者も会社や上司から無茶な指示命令を受けている場合も多いだろう。さらに言えば、委託をする事業者も、他の企業や個人から業務を受託しているケースも多いはずだ。業績のためには、多少無理な注文も受けざるを得ない。そのしわ寄せがフリーランスに来ているのが実際のところではないだろうか。
今般のフリーランス法の施行を契機に、委託者側は無理な委託とならないよう、自社の業務管理を改善していくことが求められる。担当者が上司(あるいは顧客)とフリーランスの板挟みになって苦労するような事態は避けたいものである。