今月初め、国家公務員に適用される地域手当によって報酬が減るのは「違憲」などとして、三重県・津地裁の裁判官が、名古屋地裁に減額分238万円の支払いを国に求める訴訟を起こした。現職裁判官が国に提訴するのはおそらく初めてではないかと話題になっている。
どうして「違憲」かというと、憲法第80条2項に「下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない」とあるからだ(最高裁裁判官も同様の規定が第79条6項にある)。
とはいえ、ここでいう報酬とは、いわゆる基本給部分(この後指摘する級ごとに定められた報酬)と解釈すべきだろう。そうでないと、たとえば、扶養手当の支給要件を満たさなくなったから減額するというのも憲法違反になってしまう。
そのような考えから、筆者の当初の感想は、「地域手当の変更により給与が下がり得るのは当たり前、それくらい我慢すべきでは?」というものだった。ただ、詳細を確認してみると、確かに不合理であり、訴えるのも無理はないとも思えてきた。
何が不合理化といえば、金額が大きすぎることと、地域の設定に無理があることだ。
まず金額面だが、国家公務員の地域手当は、人事院規則で勤務地ごとにその地域の民間企業の賃金水準などに応じた割合を基本給にかけて支給額が決まる。最高は20%で最低はゼロである。提訴した裁判官は、名古屋市15%から津市6%に減額となった。
裁判官の報酬は法定されており、判事は1~8級の8段階がある。中堅どころの判事5級は706,000円だ。仮に20%地域からゼロ地域への異動すると、月額約14万円もの減額となる。年額だと約170万円だが、地域手当は賞与の計算基礎になるので、賞与が4ヶ月だとすると約226万円もの減額となる(ただし、異動1年目は前任地の100%、2年目は80%の異動保障あり)。
地域により物価に差があるとは言え、いくら何でも大きすぎるのは確かだ。なお、地域間で最も差がつきやすいのは住居費と考えられるが、これは住宅手当や官舎があるので地域手当とは切り離せる。
ちなみに民間企業の地域手当の額は、労政時報の2020年の調査によると、平均で東京25,116円、大阪19,709円、名古屋17,694円とそれほど大きくはない。
次に地域の設定だが、これも根拠がよくわからない。1級地の東京23区はともかく、2級地に茨城県「取手市、つくば市」、埼玉県「和光市」、千葉県「袖ケ浦市、印西市、愛知県「刈谷市、豊田市」があり、それぞれの県庁所在地よりも上位の級地となっている(水戸市は5級地、さいたま市、千葉市、名古屋市は3級地)。提訴した裁判官の話では、級地区分が定められたのは30年も前で、どのように定められたのかを裁判を通じて明らかにしたいとのことだ。
さて、これを受けてかどうかは不明だが、国家公務員の地域手当を見直すというニュースが流れた。7月23日の時事通信によると、「市町村単位で支給率を設定している現在の仕組みを見直し、都道府県単位に広域化する方向で調整」とのことだ。
人事院も地域手当の不合理性は認識していたと思われる。ただ、既得権等の問題もあり、なかなか手を付けられずにいたというのが実情ではないだろうか。この裁判を機に見直しに踏み込んだのだと思う。ともあれ、裁判の行方に注目しておきたい。