2024/6/23

技能実習から育成就労へ

 実習生の失踪をはじめ、いろいろと問題を抱えていた技能実習が廃止され、新たに「育成就労」という形で再生することになった。

 6月14日、育成就労制度の創設などを定めた改正技能実習法が国会で可決、成立した。技能実習に代わる外国人労働者の受け皿として「育成就労」を設け、一定の専門技術を認める特定技能制度へのつなぎの場とする。これに合わせて、「育成就労」の在留資格を創設するなど、出入国管理法も改正された。施行は公布後3年以内となっており、2027年が想定されている。

 改正の背景には、技能実習に以下の問題があったからだ。

 まず、制度の目的が「人材育成を通じた技能移転による国際貢献」となっていたことだ。このため、修得した技能を日本国内で活かすことが前提となっておらず、実習修了後は帰国するのが制度上の原則となっていた。これもあり、2019年創設の外国人労働者の長期活用を企図する特定技能制度とも対象職種・産業分野が異なるなど、連携が不十分となっていた。

 また、技能実習生は実習中の立場であることから、転籍は原則不可であり、これが失踪の原因の1つとなっていた。さらに、送り出し・受入れ機関や監理団体による人権侵害や高額手数料徴収の発生等の問題もあった。

 このような実態から、外国人にとっては就労しづらい制度となっていた。まして、近年の日本の経済力の低下から賃金のメリットも低下しており、日本で働く魅力は薄れている。制度面でも収入面でも魅力がないのが技能実習の実態となっていた。

 深刻な労働力不足を補うために外国人材の活用は必須課題となる。これらの問題を踏まえて改正に至ったわけだが、主な内容は以下の通りである。

 まず、目的が「育成就労産業分野において、特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保すること」となった。「人材の確保」が明記されたのがポイントである。

 次に、特定技制度との一体運用を図るため、
・原則3年間の就労を通じて、特定技能1号水準の人材を育成
・受入れ対象分野は、特定技能の産業分野と原則一致
・従事できる業務の範囲を特定技能の「業務区分」や関連する業務に拡大
などの整備がなされた。また、実習生の権利保護の観点から、
・本人の意向による転籍を一定条件で認める
・悪質ブローカー排除のため、当面の間、手続きへの民間業者の関与を禁じる
・監理団体に代わる「監理支援機関」については、外部監査人の設置を許可要件とする
 なども定められた。

 米国務省から「強制労働」と指弾されるなど、国際的にも問題視されていた技能実習だが、2023年10月時点で40万人もの実習生が、建設・製造などの現場を支えているのも事実だ。1991年の制度創設から33年。さまざまな問題を抱えながら存続してきたのも現場の強固なニーズがあったからだろう。

 しかしながら、強制労働等の人権侵害に厳しい視線が送られるようになった今日、もはや制度の存続は許されなくなったということだ。

 改正により、「人材の確保」目的が明記されたとはいえ、制度の主眼は「育成」である。企業側もタテマエとして育成を掲げるだろうが、ホンネは「人材の確保」のみというところが多いと思う。制度は変わっても、企業の考え方が変わらなければ、育成就労となっても問題は引き続き発生することが予想される。今回の改正でこれまでの問題が解消するかといえば難しそうである。    

 


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