近年、”アンコンシャス・バイアス”という言葉が注目されている。アンコンシャス・バイアスとは、「無意識の偏見」のことで、「自分自身が気づかずに持っている、ものごとの捉え方の偏りや思い込み」である。
アンコンシャス・バイアスは、これまでに過ごしてきた社会環境や過去の経験によって培われるものだ。「Aさんは強いリーダーシップで部下を率いるやり手の営業部長」と言われて、多くの人が頭に思い浮かべるのは“日本人の中高年男性”だろう。新卒で入った日本人男性が年功を重ねて管理職となることが多い日本企業では、そのような営業部長といえば“日本人の中高年男性”が典型的だからである。
これまで企業は、オールドボーイズクラブと呼ばれる男性中心のネットワークが組織の規範をつくってきた。中でも日本企業は人材の流動性が少なく、外国人も少ないため、特に同質性が高い。固定的かつ一元的なアンコンシャス・バイアスが形成されやすいと思われる。
ところが、現代では、中途採用者や外国人の増加、ジェンダー意識の高まりから、多様性が求められるようになり、これまで主流であったオールドボーイズクラブの価値観と軋轢が生じるようになった。もちろん、昔も軋轢はあったが、異なる価値観を持つ者は少数派であり、声も弱かったことから、目立つものではなかったが、現在は人数も増え、また、人権的な配慮から、反対意見を無視したり、抑圧したりすることも許されなくなってきた。
そのような軋轢を抱えては、組織がうまく機能しなくなる。アンコンシャス・バイアスを何とかしなければならない、それが、アンコンシャス・バイアスが注目されるようになった背景と考えられる。
ところで、アンコンシャス・バイアスはなぜ起きるのだろうか。それは、人間にとって必要だからである。人間が生活していくなかで、多くの情報が瞬時にわれわれの脳に入ってくるが、すべてを処理することはできない。そのため、脳は情報を効率的に処理するために、簡略化や一般化を行う。これが先入観やステレオタイプの形成につながり、無意識のバイアスを生み出すことなる。
このように人が生きていくうえで必要なものだが、会社組織においては無意識のバイアスは、さまざまな影響を及ぼす。一言でいえば、多様性が阻害されてしまうことである。そして、多様性が阻害されることで、イノベーションが制約されたり、意思決定の誤りを惹起させたりするほか、労働環境の悪化や人材の流出なども引き起こす。会社組織の成長や存続に大きな負の影響を与える可能性があるということだ。
それでは、アンコンシャス・バイアスを防ぐにはどうすればよいだろうか。厚生労働省が公開している「アンコンシャス・バイアス セミナー~心に潜む“無意識の思い込み”に気づく~」という動画では、まずは公平であろうとする意識を持ち続けることが大事としたうえで、次の3点を挙げている。
①自分自身の普段の言動に、決めつけがないかを意識する
②表情や態度などの相手のサインに注意を払う
③自分とは異なる価値観や考え方を否定せず、その人の背景を理解する
組織や周囲の人への影響の大きい経営者や管理職は、特に自覚を高めてほしい。同動画では、アンコンシャス・バイアスは相手の可能性を狭めるだけでなく、自分自身の可能性も狭めることも指摘している。相手を傷つけるだけでなく、自身の成長にも影響を及ぼすということだ。