前回、経団連の「2023年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」から諸手当の動向を述べたが、もう1つ興味深いテーマがあったので検討したい。
今回は「高齢社員の人事評価」である。調査結果では、60~64歳の高齢社員に対して人事評価を実施しているのは90.9%と大半にのぼる。65歳以降でも60.0%と半数を超えており、高齢社員の人事評価は一般的なものであるといえる。
もちろん、60歳以上でも正社員であれば評価があるのは当然だが、本調査では、8割近くが65歳までの継続雇用制度の適用者となっているので、再雇用等であっても人事評価を実施している企業が多いことが推察できる。
人事評価の活用方法(あてはまるものすべて回答)は、60~64歳で、「賞与・一時金への反映」82.0%、「本人へのフィードバック」80.7%、「基本給への反映」49.3%、「契約更新の際の参考」46.0%となっており、ボーナス査定目的が多いことがわかる。一方、基本給への反映は半分ほどで、評価による昇給はそれほど行われていないといえる。契約更新の際の参考が5割に満たないのは、評価に関わらず65歳までの雇用が前提となっているからだろう。この数値は、65歳以降では75.4%と割合が高まる。
このように再雇用等の高齢社員にも人事評価を行う企業が多いわけだが、他方で高齢社員に評価が必要かという議論はある。理由としては、評価の主目的である人材育成に関して、不必要とは言わないが、現役社員に比べれば必要性は低いことだ。また、昇進昇格や配置異動の際の資料という点からも必要性は低い。
評価というのは手間がかかるものだ。評価をするのは管理職となるが、現役社員の評価に加えて高齢社員にも行うのは、その手間が増えることになる。必要性の低い高齢社員の評価よりも、現役社員の評価に注力すべきというのは説得力がある。
一方で高齢社員活用の最大の課題は、いかにモチベーションを高くもって働いてもらうかだ。調査でも、課題と感じているもののトップは、「高齢社員のエンゲージメントやパフォーマンス」87.9%で、特に課題と感じているものでも62.0%でトップとなっている。
評価がないというのは、自分のやったことが会社に認められないということだ。やったことを認めてもらいたいという欲求は年齢に関わりなくあるはずだ。むしろ、永年の経験を積んでいる高齢社員ほど、その欲求は強いかもしれない。その観点からすると、評価の必要性は高いといえる。
では、どのようにすべきか。1つの方法として、簡易な評価を実施するというのがある。その際、まったく新たな制度を組み立てるのは手間がかかるし、管理者の運用負担も大変となるので、現在の評価制度をベースに簡素化するのがよいだろう。
たとえば、現役社員の評価項目で、特に高齢者に必要なものをピックアップする、能力(行動)評価はせずに、目標管理などの業績評価だけを行う、などである。業績評価への特化は、人材育成目的が希薄な高齢社員の評価の面からも整合性がある。このようにすれば、管理者も新たな評価項目を覚える必要はなく、負担を減らせる。
「高齢社員のモチベーションのために評価はしたい、だが、管理者の負担のためにしたくはない」というジレンマを抱える企業には、参考にしてほしい。