定年を65歳以上とする企業が増えており、3割を超えることがわかった。
昨年12月に厚生労働省が公表した2023年「高年齢者雇用状況等報告」によると、「定年制の廃止」や「定年の引上げ」により、定年が65歳以上となる企業は、前年比1.4ポイント増の30.8%(定年制廃止3.9%、定年引上げ26.9%)となった。21人~30人の小規模企業に限れば、37.4%(定年制廃止6.4%、定年引上げ31.0%)と4割近くに達する。
301人以上では18.1%(定年制廃止0.7%、定年引上げ17.4%)と2割を下回るものの、これも前年比では1.4ポイント増えており、60歳定年制からの脱却は着実に進んでいることがわかる。
ちなみに20年ほど前の2004年調査では、定年制のある事業所のうち、定年年齢が65歳以上の事業所割合は8.3%だった。その後、2006年に65歳までの雇用確保措置の義務化が始まり、措置の1つとなる定年引上げや定年制廃止が徐々に増えてきたわけである。
筆者の周囲をみても65歳定年は普通に存在するようになった。数年前は、新聞等で定年引上げの記事をよく目にしたが、最近はあまり目にしなくなったように思う。ニュースバリューも低下したということだろう。
65歳以上定年普及の背景に人手不足があるのは間違いない。人材不足が顕著な中小企業で特に進んでいることからも明らかだ。60歳で退職されると、仕事が回らなくなく中小企業は多い。
もう1つは、高齢社員のモチベーションの問題だ。65歳までの雇用義務があるなか、現在の主流である再雇用制度では、賃金が大きく下がるとともに、仕事内容も簡易なものに変わるケースが多い。必然的に再雇用者のモチベーションは低下してしまう。高齢社員を戦力と考える企業であれば、再雇用ではなく、定年年齢を引き上げ、正社員として処遇していくのが合理的な選択となる。
ところで、中小企業では定年を引き上げても、給与や仕事内容、役職などが変わらないケースが多い。労働者の立場からみれば、賃金が現役時の半分以下となるケースもある再雇用に比べて、この処遇の違いは大きい。晩婚化の進む昨今では、60歳以上で就学する子どもを持つ人も多い。60歳超でも処遇の変わらない中小企業は、自社の社員のリテンションや新規人材の獲得のために、もっとその点をアピールしてよいと思う。
大企業ではまだ60歳定年が主流であり、定年以後に働く場合の大半は再雇用となる。また、65歳定年であっても、60歳前後で給与を下げられたり、役職を外されたりするケースも多い。その中には、現役並みの収入を得たい人も多いはずだ。
そのような人にとって、60歳以上でも賃金が下がらない中小企業は魅力となる。中小企業から見れば、経験豊富な優秀な人材を確保できるチャンスでもある。もちろん、大企業と同様の賃金は無理にしても、その6~7割でも、再雇用に比べればはるかに高賃金となる可能性はある。人手不足に悩む中小企業は、大企業高齢社員の獲得も検討してみてはいかがだろうか。