前回は確定拠出年金の概要を述べた。これを踏まえて、今回は中小企業がどのような形で導入するかを考えてみる。ポイントとなるのは既存退職金の有無である。
退職金制度未導入であれば、前回のメリット・デメリット等を踏まえ、導入の是非を検討すればよい。問題は既に退職金制度がある企業(実際にこちらのほうが多いはずだ)で、既存の退職金をどうするかが課題となる。
パターンとしては、①既存の退職金を廃止する、②既存の退職金を減額する、③既存の退職金はそのままとする、の3つが考えられる。見直し後の退職金は、①はDCのみ、②③は既存退職金とDCとの二本建てになる。それぞれ中身を解説していこう。
①既存退職金の廃止
廃止する既存退職金での社員支給額をDCに移管することになる。移管は一度ではできず、4~8年をかけて行う。課題としては、その分のキャッシュが必要となることである。4~8年の分割払いとはいえ、全社員の退職金額を用意するのは結構な負担になるはずだ。
移管をせず、退職金を清算して、社員に支給、あるいは退職時まで会社に留め置くという方法もあるが、支給する場合は一時所得としての課税の問題(退職所得よりも社員に不利)、留め置く場合は、退職債務が残存することになり、さらに予定利率をどうするかの問題も生じるので実際的ではない。
また、中退共に加入している場合、廃止は困難となる。中退共からDCへの移管は原則できないため、DC1本にするには中退共を解約せざるを得ないからだ。解約には社員の同意が必要で、解約金は一時所得として課税されるので、同意を得るのは困難のため、事実上、解約は無理といえる。
②既存退職金の減額
減額分については①と同様にDCに移管することになる。既存退職金については、「退職時の基本給×一定係数」で算定する基本給連動方式であれば、これに0.7を掛け、0.3の分をDC化するといった仕組みが考えられる。ポイント方式であれば、現状の退職金ポイントを減らし、その分をDC化するような制度が想定される。
なお、中退共に加入している場合、掛け金減額が必要となる可能性があるが、①のケースと違って解約・清算するわけではないので、社員の同意は得やすい。
③既存の退職金はそのまま
③には2つのパターンがある。1つは、単純に既存の退職金に加えて新たにDCも設けるものだ。ただ、当然のことながら人件費が大きく増加する。既存の退職金額が過少である場合などを除き、一般の中小企業では現実的ではない。
もう1つは、前回類型化した福利厚生型のDCである。福利厚生制度として、従業員がDCを選択した場合に既存の給与の一部をDCに拠出していくものだ。現状の退職金制度はそのままでよく、原則、人件費負担も増えないので、中小企業に最も導入しやすい方式といえる。
拠出額を2万円としたときのイメージは次の通りである。
●現在
・基本給300,000円
●DC導入後
・DC選択する社員:基本給280,000円(+DC拠出20,000円)
・DC選択しない社員:基本給280,000円+SL(セカンドライフ)手当20,000円
DC選択社員は、月の給与は減ることになる。選択しない社員のSL手当は、退職金の前払いに該当する。