2023/11/12

退職金見直しの現状

 政府は成長分野への労働移動の促進のために、勤続年数が長いほど有利になる企業の退職金制度の見直しが必要としている。見直しの中身として、「退職所得課税制度の見直し」と「自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直し」が示されている。

 このうち、前者は定年退職者などにとって増税となるもので、“増税”にセンシティブになっている政権には、今は触れたくないテーマである。それもあってか、自民党の税調会長も「見直しは来年で、実施は10年以上も先になる」旨を述べており、事実上の先送りのようである。

 とすると、労働移動を促すための退職金制度見直しは各企業に委ねられることになる。では、企業は退職金の見直しについてどのように考えているのだろうか。先日公表された令和5年版就労条件総合調査で確認してみよう。

 退職一時金制度について、過去3年間に見直しを行った企業割合は 7.9%となっている。見直しを行った企業について、見直し内容(複数回答)別の割合をみると、


「新たに導入又は既存のものの他に設置」30.0%
「支給率増加」21.3%
「算定基礎額の算出方法の変更」17.8%
「その他」14.6%

 などが上位である。「新たに導入又は既存のものの他に設置」は、1,000人以上が2.8%に対し、30~99人が35.5%と規模の大小により大きな差がある。

 一方、今後3年間に見直しを行う予定がある企業割合は6.7%である。見直しを行う予定がある企業について、見直し内容(複数回答)別の上位項目は以下の通りである。

「新たに導入又は既存のものの他に設置」34.2%
「支給率増加」28.6%
「その他」19.3%
「算定基礎額の算出方法の変更」18.9%

 過去3年間と比べて「支給率増加」が7.3ポイント増えている。「新たに導入…」もやや増えていることを踏まえると、人材の確保・流出防止のために、退職金の魅力を高めようとしているのかもしれない。その一方で、「退職一時金制度の廃止・脱退」は、過去3年間の1.5%から、今後3年間は6.6%と4倍以上に増えている。コロナ禍から立ち直れない企業が一定数あることがうかがえる。

 政府が企図している「自己都合退職の場合の退職金の減額」の見直しは「その他」に含まれることになるのだろう。政府の意向を受け、厚労省もモデル就業規則の退職金に関する規定を変更したが、既に退職金制度のある企業が同様の見直しをするとは思えない。若手人材の流出につながり、人件費増額にもなるからだ。

 企業にもメリットがあり、労働移動の促進にも寄与する見直しとしては、退職金前払いへの移行がある。これだと、企業に退職金債務の負担を避けられるというメリットがある。調査項目で言えば「退職一時金を縮小又は廃止し毎月の給与を拡大」で、過去3年間では、10.5%(労働者一律7.2%、労働者の選択制3.3%)となっている。

 もっとも、今後3年間は7.3%(労働者一律3.6%、労働者の選択制3.7%)とやや低い。退職金の見直しで労働移動の促進を図りたいのなら、政府はこの手法もアピールしたほうがよいのではないかと思う。    

 


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