6月27日、飲酒運転で懲戒免職となった公務員(高校教諭)の退職金の不支給を妥当と認める最高裁判決が下された。
「懲戒解雇されたのだから退職金ゼロは当然」というのが世間一般の見方だろう。就業規則に「懲戒解雇の場合は退職金を支給しない」といった定めをする会社も多い。とはいえ、懲戒解雇だからといって必ずしも退職金がゼロになるわけではない。
退職金は、長期の勤続に対する功労報償的な性格があることから、「永年の勤続の功労を抹消させてしまうほどの背信行為がない限り、退職金の不支給は許されない」とする判例が有力となっているのである。
今回の事案を具体的に見ると以下の通りだ。
・2017年4月、高校の歓迎会で飲酒し、帰宅途中に物損事故を起こして酒気帯び運転の疑いで現行犯逮捕。このとき、飲酒運転をしないよう注意喚起があったにもかかわらず、飲酒は約4時間に及んだ。なお、帰宅には20キロ以上の運転が必要だった。
・同年5月、宮城県教育委員会は教諭を懲戒免職とするとともに、退職手当約1,720万円全額を不支給とする処分を下した。
・元教諭が退職手当不支給に係る県教育委員会の処分の取り消しを求めて提訴。
・2021年の一審仙台地裁判決は全額不支給を違法と判断し処分を取り消した。県側が控訴。
・2022年の二審仙台高裁判決も処分を違法とした上で、退職手当の3割に当たる約517万円を男性に支給すべきとした。県側が上告。
このように一審二審の判断は、これまでの判例の流れに沿ったものだった。最高裁はこれを覆したわけだが、その理由を6月27日の共同通信は次のように報じている。
『長嶺安政裁判長は退職手当を制限するかどうかの判断が原則として県教委など「管理機関の裁量に委ねられている」と指摘。男性の飲酒運転は悪質で公務への信頼に支障を及ぼした点や、事前に県教委が飲酒運転に厳しく対応するとの注意喚起を複数回していた事情を踏まえると、全額不支給が「著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱、乱用したとはいえない」と結論付けた。』
ちなみに、宮城県の「職員の退職手当に関する条例」では、懲戒免職等処分を受けて退職をした者は、退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができると定めている。
本件、公務員だから重い処分でも仕方がないという考えもあるだろう。ただ、今年の2月にも公務員で同様の事案があった。実家で飲酒後に約150メートル離れた自宅に帰る途中に物損事故を起こして懲戒免職となった長野県小諸市の元職員について、最高裁は、退職金不支給とした市の処分を取り消した1、2審判決を支持したのだ。
一審の長野地裁では、「当該非違行為がこれまでの勤続に対する報償をなくし、かつ、退職手当の賃金後払的性格や生活保障的性格を奪ってもやむを得ないとするには均衡を欠いて」いるとされ、二審の東京高裁でも、「約33年8カ月の男性の勤続に対する報償などを全て奪ってもやむを得ないとする処分は重すぎる」と判断された。従来の判例を継承しており、最高裁もこれを支持したわけである。
両者の差は、運転距離20キロと150メートルの差といった行為の悪質性の違いもあるが、元教諭に注意喚起を再三していたこともポイントとなるだろう。飲酒運転に限らず、懲戒処分の際には、普段の注意・指導が重要となることをあらためて認識しておきたい。