6月6日に公表された「新しい資本主義」実行計画2023改訂版で、成長分野への労働移動を促進するために企業の退職金制度の見直しが示された。同様の内容が翌日7日に公表された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」原案にも盛り込まれている。
見直しの論点は、「退職所得課税制度の見直し」と「自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直し」の2つである。
1つ目の退職所得課税制度の見直しだが、現状の仕組みでは、勤続年数が長いと退職金が支給される際の税金が優遇されることになっており、これが円滑な労働移動の障害になっているということだ。
具体的には、勤続20年までは1年につき40万円の退職所得控除があるが、20年を超えると控除額が70万円となる。
見直しの方向は、勤続年数にかかわらず控除額を同じにする形になるだろう。そうすると、現在の20年超に合わせることは考えづらいので、20年超勤続している人の控除額は減ることになる。これは、退職金の減額と同じである。何十年も先の話になる若手社員はともかく、数年後に退職金を受け取る世代にとっては大きな問題といえる。
退職金を年金で受け取ることができる場合は、年金を選択する人も多くなるだろう。これまで一時金でもらったほうが税金面で有利であったが、そのメリットが薄れるからだ。
政府は「制度変更に伴う影響に留意しつつ」進めるとするが、設計作業は難航しそうである。
このような問題を抱える課税制度の見直しだが、労働移動の促進の観点からどれほどの効果があるかは疑問だ。転職をすると退職金が不利になるからといって、転職を思い止まる人がそれほど多くいるとは思えないからだ。
とはいえ、「働き方によって有利不利が生じない公平な税制を構築する観点(鈴木財務大臣)」から、この見直しは実行すべきだろう。いつかはやらなければならないことなので、この際、やっておくのは意義があると考える。
2つ目は、自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直しである。退職時の勤続年数にもよるが、自己都合退職は会社都合退職の支給額の半分になるといった取り扱いが一般的である。この仕組みを見直すということだが、当然、法律で禁止するのは無理がある。
ではどうやって進めるかといえば、厚労省の示す「モデル就業規則」を見直すというのが政府の考えである。現在のモデル規定では、「自己都合による退職者で、勤続〇年未満の者には退職金を支給しない」となっているので、これを見直すということだ。
もっともモデル就業規則が変わったからといって、自社の退職金規定を変える会社はほとんどないはずだ。期待できるとすれば、今後新たに就業規則を設ける会社ということになるが、2つ目の見直しは、基本的に政府がコントロールできるものではなく、せいぜい、経済団体等を通じてお願いするくらいしかないというのが実情だろう。
と、書いていて思ったが、当の国家公務員の退職金はどうするのだろう。現在の仕組みは、自己都合と定年退職等の退職理由別に差を設けている。国として見直しを進めるのだから、まずは国家公務員の退職金を見直すのだろうか。仮に自己都合退職でも定年退職と同じ扱いにするのであれば、“公務員優遇”の批判を浴びることは間違いなく、これも難しい判断を迫られているといえる。