近年、為替レートの変動が激しい。2年前の2021年4月は1ドル110円だったが、2022年10月には150円近くまで円安が進み、現在は135円といったところだ。
基調としては円安であり、海外給与を日本国内の給与で設定している場合、海外勤務者にとっては給与が目減りすることになる。変動が小さい、あるいは一時的なものであれば我慢できるかもしれないが、今回のように大幅に安くなり、また、長引いてくると、生活への影響も大きく、忍耐の限界を超えてくる。
ただでさえ、国内とは異なる環境での生活は負担が大きいはずだ。給与が実質的に減ってしまう現状は、海外勤務社員のモチベーションにも大きな影響を及ぼす。企業として、何らかの対応を検討する必要も出てくるだろう。こういった為替変動時、特に円安時の対応の仕方を整理してみよう。
対応としては、目減り分を補償することが基本となる。具体的には以下の2つである。
①海外調整給(為替変動調整給)の支給
②海外勤務手当や海外地域手当等の増額
①は一時的なもので、円安が元に戻れば支給を打ち切る。②は、円安が元に戻っても原則として増額したままとなる。
どちらにするかは、企業の考え方次第だが、①のほうが現実的な対応といえるだろう。②は、今後、円高になった場合に過大支給になりかねないからである。また、①であれば、いったんルールを定めておけば、今後の変動にも対応可能だからである。
なお、根本的な解決策として、海外基本給を現地通貨で固定する、というのもある。ただし、いつのレートで固定するかを決めるのかが難しく、また、社員によっては、国内給与とかけ離れたものになる可能性があるので、あまり現実的ではない。
それでは、海外調整給(為替変動調整給)について、もう少し踏み込んでみよう。設計のポイントは次の2点である。
①金額をいくらにするか、どのように決めるか
②どのような場合に支給するか
①については、たとえば以下のものである。
ア.基準となる為替レート(生活への影響がなかったと考えられる時点のレート)
イ.現在の為替レート
ウ.「海外基本給×(アとイの差額)」を調整給として支給
他に、社員の役職・等級等に応じて一定額を決めておき、それを支給するという方法もある。一定額は、為替レートによっていくつかパターンを用意しておくことも考えられる。
②については、
ア.上記の基準となる為替レートから継続的に10%以上乖離した場合
あるいは、
イ.為替変動により現地生活に支障が出るおそれがあると判断される場合
などを定めておき、人事担当役員等の判断で支給の開始、終了を決めることが考えられる。
なお、支給にあたっては、あくまでも一時的な措置であり、事態が収まった場合は打ち切ることを明文化し、対象者に説明しておくことが重要である。
最後に、為替変動に「対応しない」という選択肢もあることに触れておきたい。そのロジックは、為替変動リスクは海外勤務手当や海外地域手当などの手当に織り込みずみであり、それでカバーすべきというものである。また、円高時には得をすることもある。海外給与とはそういうものだと納得してもらうのも1つの考え方といえよう。海外勤務者の給与レベルが相当に高い、あるいは勤務期間がそれほど長くない企業であれば、このような選択も考えられる。