2023/3/12

賃金のデジタル払い

 2023年4月1日から、「賃金のデジタル払い」ができるようになる。「賃金のデジタル払い」とは、「PayPay」や「LINEペイ」などの資金移動業者の口座に賃金を振り込むことである。なお、資金移動業者とは、資資金決済法に基づいて、決済や送金などの為替取引のできる銀行以外の業者のことだ。

 労働基準法では、賃金支払い5原則というのがあり、その1つが通貨払いの原則である。従来、その例外(もっとも例外がほとんどだが)として、銀行等の口座や証券会社の証券総合口座への振込が認められてきた。今般、そこに資金移動業者への振込が加わるわけである。

 もっとも、簡単にできるわけではなく、いくつかの要件が設けられている。会社側に必要な主な要件を示すと、

・労働者への説明と、労働者の同意書が必要。
・過半数労働組合または過半数労働者代表との労使協定が必要。
・利用できる資金移動業者は、厚生労働省が指定した業者のみ。

などである。他に、

・口座残高は100万円以下(口座目的が資金移動であり、貯蓄ではないため)。
・一部をデジタル払い、一部を銀行口座という取り扱いも可能。
資金移動業者が破綻した場合は、保証機関から弁済される。

 などのルールもある。基本的には、賃金の受け取り方に関し、労働者の選択肢が1つ増えたということだ。もっとも、労働者から求められても会社は応じる義務はない。厚生労働省のHPにもQAがあるので、興味のある方はそこを参照してみてほしい。

 ところで、デジタル払いに必要な資金移動業者だが、現時点でまだ指定されていない。QAによると、4月1日から申請が可能で、審査に数か月かかる見込みとのことだ。となると、制度は4月からスタートするものの、実際に利用できるのは、早くても夏以降になりそうだ。

 そもそも、今のところ社員のニーズがそれほどあるとは思えず、対応を考えている企業は少ないと思われる。強いてあげれば、運送業やサービス業などで、短期の若手アルバイトを多用する企業が、人材確保のためのアピール材料として利用を検討するくらいだろうか。

 労働者側も、この制度を知っているのはほとんどいないだろう。知っていたとしても、残高上限の問題などから、ニーズは限られると思われる。

 このように、賃金のデジタル払いが開始されるといっても、すぐに普及することはなさそうだ。ただ、資金移動業者のサービス次第(たとえば、入出金手数料の無料化、口座保有者へのポイント付与など)で、利用者が拡大する可能性はある。そうなると、社員のニーズは高まり、対応企業も増加してくるだろう。

 また、企業から資金移動業者への振込手数料が安くなれば、週給制といった取り扱いも可能となってくる。週に1回、給与がもらえるのは、一定の労働者にとっては魅力ある制度となるだろう。人材確保上のアドバンテージとして、導入する企業はあると思われる。
    

 


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