地方の大学出身のAさんが就職したのは、東京が本社で、地方に支店のある会社である。Aさんは東京勤務を希望したが、配属されたのは、縁もゆかりもない関西だった。東京勤務となったのは首都圏の出身者で、首都圏以外の出身者は地方の支店勤務に回されたのである。地方出身ということで十把一絡げの扱いを受けたことにAさんは不満を持った。さらにAさんの不満を高めたのは、東京勤務の同期が早々と花形部署や海外支店に抜擢されたことである。東京勤務であれば、人事部長をはじめエライ人と接する機会が多く、キャリアに有利になる、一方で地方にいる自分は後れを取ってしまう。Aさんは、配属先による不公平を嘆いた…。
配属ガチャとは、「新入社員が希望する勤務地や職種に配属されるか分からないことを、カプセルトイの『ガチャガチャ』やソーシャルゲームの『ガチャ』になぞらえた俗語(ウィキペディア)」である。
メンバーシップ型雇用が基本の日本では、大卒(特に文系)社員は、内定後あるいは入社後に勤務地や配属部署を知らされるのが一般的である。
会社は、新入社員の希望、出身地、適性などを考慮して配属先を決める。決して機械的に割り振るわけではないので、ガチャというのは誤った言葉なのだが、組織の都合上、すべての新入社員の希望に沿うわけにはいかない。希望がかなわなかった人たちにとってはガチャと思いたくなるのも理解できる。
入社時の配属先に不満を持つ人はたくさんいたはずだが、かつては、それを当然のように受け入れていた。個人の希望よりも、企業の要請が優先するのは当たり前だったからだ。
近年、その不満が高まってきた要因の一つに、就活が非常に労力のかかるものになってきたことが挙げられる。入念に自己分析や企業研究を行い、自分はこういうタイプなので、こういう仕事が向いている、あるいは、このような経験があるので、貴社のこの部署で経験を活かしたい、というようなことを具体的に示さなければならない。期間も長期にわたる。
ところが、そのように多大の労力をかけて希望職種・部署を提示したにもかかわらず、多くの場合、それはかなえられないのである。頑張った分だけ、落胆も大きい。自分に向いていない職種・部署に配属され、一気にモチベーションは下がる。自己分析をしているだけに、この仕事は自分には合わないという思い込みは強いだろう。
新入社員であれば誰でも壁にぶつかると思うが、その際、悪いのは自分ではなく、自分に合わない仕事をさせている会社だと考える。こういった他責思考では、壁を乗り越えるのは困難となり、ますますモチベーションが下がってしまう。
このような不幸をなくそうと、希望に沿った配属を行う企業も増えている。
三菱電機では、2024年の新卒者を対象に、「経理・財務」「人事・総務」「法務・知的財産渉外」などの職種ごとに募集をする「職種確約コース(事務系)」というのを設けた。従来のやり方では、「配属職種の不確実性から選考応募時点での離脱や、入社後の配属希望とのアンマッチ等の課題が生じていました(同社HP)」とのことだ。
このような仕組みは、学生にとって嬉しいだろう。もっとも、自ら希望した部署であれば、その分、プレッシャーも大きくなることに注意が必要である。「やっぱり向いてませんでした」とはなかなか言いづらいし、部署を変えてもらったとしても、周囲の目は厳しくなるだろう。まあ、余計なお世話であるが。
多少脚色をしたが、冒頭のAさんとは筆者である。その会社の役員は10人ほどで、入社年度によっては役員のいない代も普通にある。その中で、筆者の代は特別で、同期の数名が役員になった。今思えば、その全員が入社後、最初に地方勤務となった人たちである。