2023/2/12

賃金アップは一部の人だけ?

賃金アップは一部の人だけ?

 「〇〇社が賃金10%アップ」といった景気のよいニュースをメディアで度々目にする。政府が賃上げを要請するなか、労働者側はもちろんのこと、使用者側も賃金アップを容認、いや奨励さえしている。今春は賃金アップが当然のような論調で、問題は「いくら上がるか」となっている感がある。

 もっとも、それは大企業や、情報産業など一部の恵まれた業界の話であり、「自分には関係ない」と冷ややかな視線を送る人も多そうだ。

 エン・ジャパン社が1月に実施した「昇給・ベースアップ」実態調査では、賃上げの恩恵を受けているのは少数派であることがわかる。「2022年に入って、給与(基本給+一律の手当)は上がりましたか?」との質問に、「上がった」と回答したのは約3割(28%)しかいなかった。

 「給与が上がった理由」については、「定期昇給」が55%で、「ベースアップ」は18%に止まる。「その他(11%)」の具体的理由として、「最低賃金が上がったため」というちょっと切ないものもあった。

 このような状況において、「現在の給与額に満足していますか?」との質問に、「満足していない」が82%(あまり満足していない40%、全く満足していない42%)と圧倒的多数を占めるのは、必然といえるだろう。

 これは2022年のことであって、今年は期待できるのではとも考えられるが、楽観は禁物である。

 大企業は2022年にも着実に賃上げを行っている。経団連の「2022年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」(調査対象の85%は従業員500人以上)によると、2022年春季労使交渉における労働組合等の要求項目に対する回答状況は次の通りである。

・基本給のベースアップについては、
要求を上回る(7.5%)、要求通り(27.0%)、要求を下回る(65.4%)
・定期昇給の実施、賃金体系の維持については、
要求を上回る(2.6%)、要求通り(90.1%)、要求を下回る(7.3%)

 定昇はほぼ要求通りに、ベアも要求どおりは少ないものの、着実に実施されていることがうかがえる。

 内閣府の「国民生活に関する世論調査(令和4年10月)」結果によると、所得・収入の面で「不満」と答えた人は、前年から5.1ポイント増の64.8%(やや不満40.4%、不満24.4%)となっている。ちなみに令和元年6月調査では45.6%である。調査方法に変更(調査員による個別面接聴取法→郵送法)があったため、単純比較はできないとのことだが、最近の物価高を背景に、収入面に不満を持つ人が大きく増加しているのは確かだろう。

 中小企業では、原料等のコストアップを取引価格に転嫁しづらいところがまだ多い。さらに、今年の4月から、60時間超の残業割増賃金率が50%に引き上げとなることも賃上げをためらわせる。そのような中、定期昇給は期待できず、ベアなど夢のまた夢、と考える人は少なからずいるだろう。

 世間で賃上げがクローズアップされているだけに、その対象外となる人にとっては、余計に厳しさを感じる春となるかもしれない。     

 


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