会社を船にたとえれば、経営者というのは船長である。船が無事に目的地にたどり着くかどうかは船長次第ということになる。天候等何か重大な異変があれば、最終的な決断・責任は船長が負う。その意味で、船長=経営者というのは、他の乗組員=社員とは別の資質が求められるのは確かだろう。
経営者に求められる資質とはどういうものだろうか。日本能率協会が役員・経営幹部を対象に実施した『トップマネジメント意識調査2022』を見ると、これからの経営者に求められる資質として上位に挙げられたのは以下のものである(3つまで選択)。なお、カッコ内は「自身の強みと思うもの」の数値である。
「本質を見抜く力」41.4%(18.7%)
「変化への柔軟性」37.4%(34.5%)
「イノベーションの気概」24.8%(9.4%)
「情熱」20.9%(18.7%)
「ビジョンを掲げる力」20.5%(6.1%)
いずれも重要そうだなというのは直感的に理解できる。その中でトップは「本質を見抜く力」となっている。広い意味でとらえれば、企業というのは社会や人の問題を解決することに存在意義がある。そして、目先の事象や言動に惑わされず、真因は何か、本旨は何か、背景は何かなどをつかむのは問題解決の肝である。特に経営者レベルでは、“VUCA”と呼ばれる時代のなかで何が大切かを見極め、会社の針路を示さなければならない。最重要の資質として挙げられることに異論はないだろう。
2番目の「変化への柔軟性」は、「求められるもの」と「自身の強み」のギャップが少ない。これは経営者にとって自信につながるはずだ。もっとも、1歩間違うと「信念がない」「日和見」「事大主義」など、経営者としてどうかという資質になりかねない点には注意しなければならない。
総じて資質面においては、「求められるもの」と「自身の強み」のギャップが大きいわけだが、同様のことが知識・スキル面にもいえる。
経営者に必要と思われる知識やスキルにとして、就任前にもっと身につけておけば良かったものの上位は以下の通りである。カッコは「既に身につけているもの」の数値である。
「会社法・税法などに関する法律知識」71.6%(11.9%)
「財務・会計に関する知識」69.1%、(19.8%)
「外国語によるコミュニケーション」62.2%(18.3%)
資質面よりもさらにギャップが大きいことがわかる。経営者の多くは自分を振り返ってみて、その通りと思い、中には自信を無くす人がいるかもしれない。
もっとも大企業はともかく、大半の中小企業の経営者は替えの利かない存在である。だとすると弱いところは克服する、あるいは誰かに補完してもらうことが必要となる。
弱みの克服に関しては、ある程度の改善はできるし、またその努力も必要であるが、多忙な経営者にはやはり限界がある。となれば、基本は後者となる。
ただ、誰かに補完してもらうのは、その人が自分よりも優秀と認めることであり、プライドが許さないと考える経営者もいる。特に、社外の専門家ならばともかく、社員となると、耳を傾ようとしなくなる。その傾向が強い経営者の下では、船旅のリスクは高まるということだ。
そう考えると、経営者に一番必要な資質は器の大きさ、度量かもしれない。まさに会社は経営者の器以上に大きくはならないのである。