人手不足がコロナ禍前の状態に戻りつつあるようだ。帝国データバンクが5月26日に発表した「人手不足に対する企業の動向調査」結果によれば、正社員の人手不足割合は45.9%で、前年から8.7ポイントの大幅増加となった。非正社員も27.3%が人手不足を感じており、6.7ポイント増加した。2019年調査では、正社員の人手不足割合は50.3%、非正社員は31.8%だったので、コロナ禍前の数字に近づきつつあることがわかる。
業種別に見ると、「情報サービス業」が64.6%でトップ、以下、「メンテナンス・警備・検査」60.1%、「建設」59.4%と続く。猫も杓子もDX(デジタルトランスフォーメーション)という最近の状況下で、やはりIT人材の不足が顕著なのは理解できる。IT会社の人に聞いたが、今なら、それほど技術のない若手でも、年収100万円増で転職可能ということだ。
他に目立つのは、コロナ禍で大打撃を受けた「飲食店」「旅館・ホテル」の復活である。「飲食店」は、2020年の14.3%から56.9%に、「旅館・ホテル」は12.5%から52.4%にと回復度合いが著しい。
このことが特に現われているのが非正社員である。非正社員を業種別に見ると、「飲食店」77.6%と「旅館・ホテル」56.1%が1・2位を占める。飲食店はアルバイト等が多く、正社員に比べれば解雇は容易である。仕方がないこととはいえ、需要低迷時に人員を減らしたツケが回ってきているともいえる。
今後の見通しとしては、調査でも指摘しているように、さらに不足感が上昇するのは間違いない。最も深刻な「飲食店」「旅館・ホテル」では、以前の従事者が再度戻るかといえば、雇用の不安定さを痛感した何割かは別の業種を選ぶだろう。
打開策の1つの外国人労働者は、6月から一定の条件下で入国が認められることになったが、当面は頼りになりそうにない。シニア労働者も5月27日の日経新聞に、感染懸念等から高齢者の労働参加にブレーキがかかっているとの記事があった。
人手不足対応として期待される「DX」だが、中小企業基盤整備機構の「中小企業のDX推進に関する調査」結果によると、DXに「既に取り組んでいる」のは7.9%で、具体的な取組み内容は、「ホームぺージの作成」(47.2%)が最多、次いで「営業活動・会議のオンライン化」(39.5%)と、正直、寂しい状況である。大企業はともかく中小企業で効果が生まれるのは当分先のことになりそうだ。
人々の生活がようやく落ち着き、これから一気に業績を回復させるチャンスと意気込んでいるところに、肝心の人がいないのではどうしようもない。1つ言えるのは、人手不足倒産といった最悪の事態に陥らないためにも、今いる人、運良く入ってくれた人をこれまで以上に大切にするのが何より重要ということである。