今月8日、厚生労働省から令和2年転職者実態調査が公表された。転職者の就業状況や意識について、受け入れ企業側、労働者側の双方から調査したものである。今回は企業側の調査について、ポイントを概観してみたい。
まず、労働者のいる事業場のうち、転職者がいる事業場は33.0%である。意外と少ないという印象だが、これは、調査委対象の83.7%を占める小規模企業(5~29人)が28.3%と低いためだ。ちなみに「1,000人以上」は88.4%、「300人以上」は80.9%と、大企業では8割を超えており、ある程度の企業規模であれば、転職者は普通にいると考えてよいだろう。
次に、事業所ごとの転職者の割合を見ると7.2%で、およそ14人に1人となっている。業種別では、「その他サービス業」11.1%、「宿泊業・飲食サービス業」10%が多く、少ないのは「複合サービス事業」1.8%、「電気・ガス・熱供給・水道業2.0%」である。概ねイメージ通りといったところと思う。
規模別では、「1,000人以上」4.3%に対し「5~29人」8.3%と、規模が小さくなるほど割合は高い。大企業では、転職者がいることはいるが、その割合は少ないということである。
続いて採用理由(複数回答)で、これは、①管理的な仕事、②専門的・技術的な仕事、③事務的な仕事、④販売の仕事、⑤サービスの仕事、⑥保安等その他、に分けて調査が行なわれている。
このうち、①②④は「経験を活かし即戦力になるから」がトップだが、③⑤⑥は「離職者の補充のため」がトップとなっている。また、①②は「専門知識・能力があるから」が比較的高いが、他はそれほど高くない。①②が質重視、③~⑥は量重視の傾向があることがうかがえる。
転職者の処遇決定の際に考慮した要素(複数回答)は、「これまでの経験・能力・知識」が74.7%と最も高く、以下、「年齢」45.2%、「免許・資格」37.3%となっている。「前職の賃金」は25.3%で4番目である。
「学歴」や「前職の役職」はそれぞれ11.0%、5.5%と低いが、「1,000人以上」だと41.4%、21.2%で、規模が大きいと重要度が高まっている。
また、業種による差も大きく、たとえば、「これまでの経験・能力・知識」の最大は「宿泊業・飲食サービス業」の89.8%で、最小は「複合サービス事業」の49.7%である。「年齢」の最大は「建設業」61.4%、最小は「複合サービス事業」30.9%となっている。
転職者を採用する際の問題として主なものは、「必要な職種に応募してくる人が少ないこと」67.2%、「応募者の能力評価に関する客観的な基準がないこと」38.8%、「採用時の賃金水準や処遇の決め方」32.3%である。この3つに規模間の差はあまりなく、規模に関係のない共通の悩みといえそうだ。
最後に転職者に対する教育訓練の実施状況は、「実施した」が74.5%である。内容は、「計画的なOJT」79.4%、「Off-JT」59.9%、「入職時のガイダンス」46.6%、「職務遂行に必要な能力・知識を付与する教育訓練」34.5%である。実施状況は規模間で差があり、「1,000人以上」94.8%に対し「5~29人」70.0%となっている。内容を見ると、小規模企業では「計画的なOJT」以外の3つの実施度が低く、これが差の要因となっている。
以上、転職の実態を企業側から見ると、項目によって、規模や業種によりさまざまな違いがあることがわかる。次回は労働者側の調査を概観したい。