2021/6/27

ワクチン接種を義務化できるか

 
 “ワクハラ”という言葉がにわかに注目を集めている。“ワクチンハラスメント”、つまりコロナワクチン接種を強要する種々のいやがらせである。

 コロナワクチンの接種は予防接種法で努力義務とされている。厚生労働省のHP「接種についてのお知らせ」でも「接種を受けることは強制ではありません。しっかり情報提供を行ったうえで、接種を受ける方の同意がある場合に限り接種が行われます」と明示されている。 また、「職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないようお願いいたします」とも示されている。このように接種は基本的に個人の自由である。

 しかし、会社によっては、社員間同士の感染を防ぐためや顧客の安全を確保するためなどの理由から、既往の病歴などがある場合を除いて、社員全員にワクチンを接種してほしいと考えるところもあるだろう。

 そこで、本コラムでは、

(1)社員全員一律にワクチン接種を義務づけられるか?
(2)接客業務など一定条件を満たす職場での義務化は認められるか?
(3)ワクチン接種をしていない社員を業務から外したり、出張を認めない、会議の出席を認めないなどの取り扱いはできるか?

 という3点を考えてみたい。

 まず、(1)の社員全員一律に義務化というのは無理だろう。これは、最も必要性の高い医療業務従事者でさえ個人の自由意思に任せられていることからもわかる。もっとも、強要している医療機関等もあるようだが、従わないことを理由に懲戒処分としたり、不利益取り扱いをしたりするのは違法となるだろう。もちろん、義務化をする合理的な理由があれば可能となるかもしれないが、そのような理由は思いつかない。

 次に多数の顧客と接するような一定要件を満たす職場の従事者に義務づけられるかだが、これも上記の医療従事者のケースと同様と考えられ、NGと言わざるを得ない。たとえば、海外出張が必要な部署で、渡航するにはワクチン接種が必要というケースであっても、義務化は難しく、あくまで“お願い”という形になるだろう。

 (3)については、これも基本的にNGと考えられるが、可能なケースもあると思われる。たとえば、上にも述べたように、渡航にあたってワクチン接種が必要な場合や、国内であっても取引先がワクチン接種をした人しか面会を認めない(これ自体はどうかと思うが)など、一定の合理性が認められるケースである。漠然と他の社員がいやがるからとか、お客さんが不安に思うからといった理由で、現在の業務から外したり、会議に出席できなくしたりするのは認められない可能性が高い。
 また、合理性があるにしても、配転等に従わなかったことを理由に懲戒処分とするのは避けたほうがよいと思われる。

 厚労省のHPでは、企業や労働者向けにコロナ対応のQAを設けているが、現在のところ本件に関して、直接的に回答したものはない(※問7-9にワクチン接種により健康被害が生じた場合の労災に関して、「ワクチン接種については、通常、労働者の自由意思に基づくものである」との指摘はある)。

 職場でのワクチン接種については、事業者・労働者双方とも戸惑っている人が多いと思う。早く国としての見解を明示してほしいものだ。      
 

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