2021/2/21

OJTの効果を高めるには

 
 人材育成について様々な示唆を得られる、労働政策研究・研修機構(JIL)の「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」に関し、今回はOJTを取り上げてみたい。

 会社が実践しているOJTとして上位に挙がったのは、

「とにかく実践させ、経験させる」(59.3%)
「仕事のやり方を実際に見せている」(57.5%)
「仕事について相談に乗ったり、助言している」(46.6%)
「仕事を行う上での心構えを示している」(45.3%)
「身につけるべき知識や能力を示している」(45.3%)

 である。いずれも仕事を覚えてもらうための王道であるが、会社としての取り組みというよりは、上司や先輩の取り組みに近い。悪く言えば、社員任せの安直な方策である。「専任の教育係を付ける」(9.3%)、「個々の従業員の教育訓練の計画をつくる」(12.2%)「業務に関するマニュアルを配布している」(20.1%)、「キャリア形成を支援するメンターを配置している」(2.2%)など、手間のかかりそうなものは、実践度が低いのが気になるところだ。

 一方、社員の側から経験したOJTとして上位に挙がったのは次の通りである。

「仕事のやり方を実際に見せてもらった」(31.3%)
「とにかく実践させてもらい、経験させされた」(29.3%)
「仕事を行う上での心構えを示された」(26.3%)
「身につけるべき知識や能力を示された」(24.1%)
「仕事の幅を広げられた」(23.2%)

 上位4つは、会社側のベスト5に入っていたものであり、従業員の側でも認識度が高いことがわかる。ただ、数値は会社側に比べて低くなっており、会社の思いと従業員の思いとではギャップがあるようだ。

 これは、企業調査でOJTを「何も行っていない」とする回答が3.4%だったのに対し、従業員調査で経験したOJTが「特にない」とする回答が26.6%に上ったことにも現われている。自分がOJTを受けているとの認識がなければ、その効果も期待できない。

 このようなギャップが生じるのは、1つは、取り組み内容がどちらかといえば、”とりあえず仕事をこなしてもらうための指導”であり、どうすれば効率的にできるか、どうすれば上のレベルを目指せるかといった点が不足しているからだろう。まして、今後のキャリアを見据えた戦略性や計画性はほとんど見られない。
 
 もちろん、とりあえず仕事をこなしてもらえるようにするのもOJTだが、それは最低限のことで、社員に仕事をしてもらう上である意味当然のことである。当然のことしかしてもらっていないので、4分の1もの従業員が「特にない」と回答したのではないだろうか。

 もう1つは、前回も指摘したことだが、人材育成や能力開発の方針がなかったり、あっても浸透していないことである。要は、社員は会社が自分を育てようとしていることを理解・実感していないのだ。大半の経営者は社員を育てようとしているはずなので、非常にもったいないことである。逆にこの点がしっかりアピールできていれば、たとえ戦略性や計画性が不足していても、OJTに意識的・意欲的に取り組んでもらえる可能性は高まる。

 OJTの効果を高めるためには、OFF-JTと同様に、まずは人材育成・能力開発の方針の明確化が求められるといえそうだ。      
 

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