2021/2/14

人材育成方針は浸透させることが大切

 前回、労働政策研究・研修機構(JIL)の「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」で「人材育成・能力開発の方針」が浸透している企業では、OFF-JTの効果が高い傾向にあることがわかった。

 では、人材育成・能力開発の方針とはどのようなものか、同調査の結果を見ると次の通りとなっている。

「今いる人材を前提にその能力をもう一段アップできるよう能力開発を行っている」(34.2%)
「人材育成・能力開発の方針について特に定めていない」(29.6%)
「個々の従業員が当面の仕事をこなすために必要な能力を身につけることを目的に能力開発を行っている」(24.7%)
「数年先の事業展開を考慮して、その時必要となる人材を想定しながら能力開発を行っている」(11.5%)

 ここでいう人材育成・能力開発の方針とは、制度として明文化したもの以外に、経営者や人事部門等の考え方も含めた広義のものと思われる。ただ、それすら定めていない企業が3割にも上るということだ。規模別にみると、規模の小さい企業ほど方針を定めていない傾向にある。「9 人以下」の企業は4割以上(42.2%)が方針を定めていない。

 次に、こういった方針が従業員にどれくらい浸透しているかをみると、

「浸透している」 (7.2%)
「ある程度浸透している」(66.8%)
「あまり浸透していない」(24.6%)
「浸透していない」(1.4%)

 である。上の2つを「浸透している」ととらえれば7割を越えるものの、純粋に「浸透している」は1割にも満たずやや寂しい状況である。面白いのは、規模別にみると規模の小さい企業ほど「浸透している」の回答割合が高い点だ(300人以上は4.5%、9人以下は9.8%)。人数が少なければ、方針がダイレクトに伝わりやすいからだろう。

 一方で、従業員側の受け止め方はどうか。会社の人材育成や能力開発の方針が明確かを尋ねた結果は次の通りだ。

「明確である」(15.8%)
「どちらともいえない」(39.8%)
「明確ではない」(18.9%)
「そもそも方針があるかどうかわからない」(25.5%)

 ポジティブな回答は2割にも満たず、非常に心許ない結果となっている。規模別にみると、規模の大きい企業の従業員ほど「明確である」とする回答が高く、「300 人以上」では約2割(19.8%)が「明確である」としている。これは、規模が大きい企業では、方針を文書等で明示しているケースが多いからと考えられる。規模が小さいところは、経営者が思っているだけ、あるいは人事部門が認識しているだけといったところが多いのではないだろうか。

 いずれにしても、会社が考えるほど、人材育成・能力開発方針は社員に浸透していないことがうかがえる。

 以上を簡単にまとめると、何らかの形で人材育成・能力開発方針を有する企業は7割程度あり、これらの企業の7割くらいは社員に浸透しているという認識であるが、社員の側では、方針が明確と思っているのは2割にも満たない、ということだ。

 企業としては、人材育成・能力開発方針を示すことも大切だが、それが社員に明確に受け止められるよう努力しなければならない。では、明確に受け止めてもらうためにどうするか、ヒントとなるのが次の質問と回答である。

 従業員に、仕事をする上での能力を高めるにあたり、どのようなことが課題だと思うかを尋ねたところ、
  
「従業員に必要な能力を、会社が考えていない」(18.6%)
「従業員に必要な能力を、会社がわかりやすく明示してくれない」(18.2%)

 などが上位に挙がっている。「会社に人材育成や能力開発に関する方針がない」も16.1%あり、方針を明確化した上で、求める能力を具体的に示すことが必要と考えられる。言葉を換えると、これらをせずに研修等行っても効果はそれほど期待できないということだろう。     
 

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