2020/11/8

70歳雇用Q&A~その1

 2021年4月に70歳までの就業機会確保を努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が施行される。コロナ騒動に気を取られているが施行まで4か月ちょっとである。未対応の企業はそろそろ検討を始めなければならない。

 これに関し、10月30日に厚生労働省からQ&Aが公表された。QAは、高年齢者就業確保措置について次の5テーマに分け、全部で25の質問を設けている。このうち、1・2が総論、3~5が各論といえる。

1.高年齢者就業確保措置
2.対象者基準
3.65 歳以上継続雇用制度の導入
4.創業支援等措置の導入
5.創業支援等措置の労使合意

 ちなみに高年齢者就業確保措置とは次のいずれかの措置である。

①70歳までの定年引き上げ
②定年廃止
③70歳までの継続雇用制度の導入
④高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

 ①~③が雇用による措置、④⑤は雇用によらない措置(創業支援等措置)となる。

 今回は、1・2の「総論」の中で特に実務に役立ちそうなものを見てみよう。内容は適宜短縮・修正を加えている。なお、番号はQAに示されたものである。

①67 歳までの継続雇用制度を導入するなど、高年齢者就業確保措置を段階的に講ずることは可能か?

⇒ 段階的に措置を講ずることも可能。ただし、改正法で努力義務として求めているのは 70 歳までの就業機会を確保する制度を講じることなので、70 歳までの制度導入を努め続ける必要がある。

  必ずしも70歳雇用に縛られる必要はないとのことである。とりあえず可能な範囲で制度をつくればよいというのは、企業にとっては負担が軽減しそうだ。

⑤70 歳までの就業確保措置を講じる際に、就業規則を変更する必要はあるのか?

⇒定年の引き上げ、継続雇用制度の延長等の措置を講じる場合や、創業支援等措置に係る制度を社内で新たに設ける場合には、就業規則の「退職に関する事項」等に該当するので、就業規則を作成、変更し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要がある。

 ここでは、制度作成に伴い、就業規則を変更する必要があることを押さえておきたい。

⑦当分の間、65 歳に達する労働者がいない場合でも、高年齢者就業確保措置を講じなければならないのか?

⇒ 全ての企業に対して一律に適用される努力義務なので、当分の間、65 歳以上の労働者が生じない企業も含めて、高年齢者就業確保措置を講じるよう努めることが必要。

 社員数の少ない中小企業や創業間もない企業では、当該ケースは多いだろう。必要最低限のものを整備しておくという選択でもよいかもしれない。

⑨就業規則において、継続雇用しない事由や業務委託契約等を更新しない又は解除する事由を解雇事由とは別に定めることはできるか? 別に定めることが可能な場合、創業支援等措置については、どこで定めるのか?

⇒ 高年齢者就業確保措置は努力義務であるため、「措置の対象者を限定する基準」として継続雇用しない事由や業務委託契約等を更新しない又は解除する事由を、解雇事由とは別に就業規則に定めることは可能。 また、創業支援等措置における業務委託契約等を更新しない又は解除する事由を定める場合には、創業支援等措置の実施に関する計画の記載事項である「契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む)」に盛り込む必要がある。

 契約の更新や解除の事由を定めることは可能であり、その場合は、就業規則または創業支援等実施計画に記載することになる。なお、期待する成果物の納品がないときは契約解除できるかという質問が㉔にある。これについては次回扱うことにする。

⑩事業主が、雇用する高年齢者に対して高年齢者就業確保措置を利用する希望があるかどうかを聴取するのは、65 歳の直前でなければならないか?

⇒ 事業主は雇用している高年齢者が 65 歳を迎えるまでに希望を聴取する必要があるが、タイミングについては 65 歳の直前でなくても構わない。

 合理性のあるタイミングであればよいということだろう。ただ、たとえば、5年前の60歳時点で決めてもらい、原則変更不可といった取り扱いは無理があるかもしれない。

⑪指針において、賃金・人事処遇制度について、「支払われる金銭については、制度を利用する高年齢者の就業の実態、生活の安定等を考慮し、業務内容に応じた適切なものとなるよう努めること」、「職業能力を評価する仕組みの整備とその有効な活用を通じ、高年齢者の意欲及び能力に応じた適正な配置及び処遇の実現に努めること」とあるが、70 歳までの就業機会を確保する上で、具体的にどのような点に留意したらよいのか。

⇒ 70 歳までの就業確保においては、労働者の希望に合致した労働条件までは求められていないが、法の趣旨を踏まえた合理的な裁量の範囲内のものであることが必要。雇用により 70 歳までの就業確保を行う場合には、最低賃金やパート有期雇用法に基づく公正な待遇の確保など、労働関係法令の範囲内で賃金等を定める必要がある。 雇用によらずに70 歳までの就業確保を行う場合は、業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量等を考慮したものとなるよう留意する必要がある。

 雇用型が労働諸法令に基づいて決定すべきなのは当然のこととして、ポイントなるのは業務委託など雇用によらない場合の報酬をどうするかだろう。企業からすると、これまでの賃金を時給換算したものでよいと判断するかもしれないが、業務委託の場合は社会保険料などの負担がなくなるので、その分を上乗せすべきという考え方も出てくる。この点は、今後の課題となるはずだ。

⑫対象者を限定する基準とはどのようなものか?

⇒ 対象者を限定する基準の策定に当たっては、過半数労働組合等と事業主との間で十分に協議の上、各企業の実情に応じて定められることを想定しており、その内容については、原則として労使に委ねられる。ただし、労使で十分に協議の上、定められたものであっても、事業主が恣意的に特定の高年齢者を措置の対象から除外しようとするなど高年齢者雇用安定法の趣旨や、他の労働関連法令に反する又は公序良俗に反するものは認められない。

 対象者の基準は、実務的に大きな焦点となるはずだ。努力義務なので、労使間の協議である程度自由に決められるものの、『会社が必要と認めた者に限る』や『上司の推薦がある者に限る』などは、「基準がないことと等しく、これのみでは本改正の趣旨に反するおそれがある」ので認められないと、実際にありそうな文言を使用しないよう釘を刺している。

 以上、「総論」に関するQAの主要部分を確認してみた。次回は、「各論」部分をまとめてみたい。    
 

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