2019/11/24

パワハラ防止指針案が定まる

 
 11月20日、「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」案が労政審議会で了承された。事実上の確定である。10月28日の本コラムでも述べたが、指針の素案には労働者側の反発が強く、物議をかもした。反発を受け、素案がどのように変わったか、一番の注目点である「パワハラの該当例」の修正箇所を確認してみよう。以下、上が素案、下が了承案である。「イ」「(ロ)」等は了承案の符号で、わかりやすいよう変更部分に適宜下線を示した。

イ 身体的な攻撃(暴行・傷害)
 
(イ)該当すると考えられる例
 怪我をしかねない物を投げつけること。
 相手に物を投げつけること。

(ロ)該当しないと考えられる例
 誤ってぶつかる、物をぶつけてしまう等により怪我をさせること。
 誤ってぶつかること。

 (イ)は、怪我をしない物なら投げてよいのか? と日本労働弁護団から指摘を受けた部分だ。 (ロ)は、怪我をさせておいて該当しないというのも変だろうということで見直されたか。

ロ 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

(イ)該当すると考えられる例
人格を否定するような発言をすること。(例えば、相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な発言をすることを含む。)
人格を否定するような言動を行うこと。(例えば、相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。)

(ロ)該当しないと考えられる例
遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意をすること。
遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること。
 
その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、強く注意をすること。
その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること。

 (ロ)は、いくら正当な理由があったとしても「強い注意」はパワハラに該当するおそれがあるということのようだ。

 ハ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

(ロ)該当しないと考えられる例
新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施すること。
新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること。
 
処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させる前に、個室で必要な研修を受けさせること。
懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること。

 個室を別室に変えたわけだが、個室だと陰湿なイメージがあるということか。
 
ホ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

(ロ)該当しないと考えられる例
経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること。
削除

 素案で最も反発のあった部分である。素案は解釈次第でいわゆる「追い出し部屋」を認めかねないと労働者側が強く反対した。結局、この事例は削除となった。

 全体にささいな表現の修正が目立つが、多少なりとも「該当すると考えられる例」は範囲が拡大し、「該当しないと考えられる例」は狭まったのも事実だ。素案では、即座に反対声明を出した日本労働弁護団も、今回は今のところ公式の反応はないようだ。

  ともあれ、指針案はこのような内容で固まった。来月中にも厚労省から正式に通達が出ると思われる。パワハラ防止に、実際どれくらい効果があるか注目しておきたい。   
 

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