2019/5/26

役員退職慰労金について



 役員退職慰労金とは、役員退任時にその功労に報いるために支給されるもので、いわば役員の退職金である。社員の退職金と違うのは、支給にあたって株主総会の決議が必要となる点だ。といっても、「〇〇万円を支給する」と具体的に決めるのではなく、「会社の規定に従って支給するものとし、具体的な金額、支給時期等は取締役に一任する」といった形の決議が大半である。

 退職慰労金の算定方式には、大きく分けて「退任時報酬方式」と「役位別積み上げ方式」の2つがある。

 「退任時報酬方式」は、退任時の報酬に基づいて決定する方式で主なパターンとして以下の4つがある。

①退任時報酬×役員期間
②退任時報酬×役員期間×退任時役位別倍率
③退任時報酬×Σ(役員別期間×役位別倍率)
④退任時報酬×役員期間別支給率

 ①~④のうち、最も多いのはパターン②である。②や③で使われる役位別倍率は、役位の重さを反映させるための係数だ。代表取締役2.5、専務取締役2.0、常務取締役1.8、取締役1.5というように1~3の範囲内で設定するのが一般的である。大きすぎると慰労金が高額となり、税法上の損金とならない部分が出てくる可能性がある。
 なお、退任時報酬は、以下のように役位別の定額とする場合もある。

・代表取締役 200万円
・専務取締役 150万円
・常務取締役 130万円
・取締役    100万円
 
 一方、「役位別積み上げ方式」は、就任した各役位期間を慰労金に反映させるもので主に次の2つのパターンがある。

①Σ(役位別定額×役位別期間)
②Σ(役位別定額×役位別期間×役位別倍率)

 なお、役位別定額はそれぞれの在任時報酬とするときもある。

 やや古いが、平成25年総務省「民間企業における役員退職慰労金制度の実態に関する調査」)によると、退職慰労金制度のある企業のうち、「退任時報酬月額」に基づくもの(1の方式)が36.7%と最も多く、次いで「歴任役位別報酬月額」に基づくもの(2の方式)23.4%、「取締役会で決定」9.9%、「役位定額」9.0%(1・2の方式)となっている。ちなみに「業績連動」は1.0%とごく少数である。

 両者の特徴を整理してみると以下のようになる。

●退任時報酬方式
・計算が簡単
・高額となりがち  
・退任時の役位で決まるので貢献度の反映という意味で合理性は低い

●役位別積み上げ方式
・計算がやや複雑
・退任時報酬方式に比べれば低額となる
・貢献度の反映という意味で合理性が高い

 また、上記の本体部分位加えて、特に功労のあった役員に特別加算をする「功労金」が支給される場合もある。一般的に退職慰労金の20~30%以内とする企業が多い。

 近年は退職慰労金を廃止する企業も増えている。先の総務省の調査では、1,000人以上の37.3%、また、株式公開企業の48.6%が「廃止した」と答えている。
 廃止理由としては以下のものが上位となっている。

・「業績に連動化」 45.6%
・「年功・後払の払拭」 30.5%
・「株主等の要請」 20.2%

 ご覧の通り、退職慰労金は、業績反映というより、役員というポジションにいることで支給額が決まる年功的性格が強いものが多い。社員に成果を求める一方で、旧態依然とした方式による役員の退職慰労金に厳しい目が向けられるのも仕方がないだろう。「退任時報酬方式」をとっているのであれば、株主の視線をそれほど気にしなくて良い未公開企業であっても、「役位別積み上げ方式」への切り替えくらいは検討すべきでないかと思う。
 

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