2026/10/11

中途採用者の賃金をどう決めるか

 中途採用者の賃金をどうするかは頭の痛い問題である。新卒採用であれば初任給という共通の物差しがあるが、中途採用者は年齢、経験、能力、前職給与などが一人ひとり異なるからだ。このほど公表された厚生労働省の「令和7(2025)年転職者実態調査」は、企業が実際に何を考慮しているのかを示している。

 転職者がいる事業所に「賃金決定の際に考慮した要素」を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのは「これまでの経験・能力・知識」の59.2%であった。以下、「年齢(35.3%)」、「賃金の世間相場(34.2%)」、「免許・資格(30.6%)」、「前職の賃金(27.0%)」と続く。

 さらに「最も重視した要素」を1つだけ選ぶと、「経験・能力・知識」が38.4%と突出し、「賃金の世間相場(19.1%)」、「前職の賃金(9.2%)」となる。中途採用者の賃金は、前職の給与をそのまま引き継ぐというより、まずは、これまで培ってきた能力・経験を自社でどれくらい発揮できるかが軸となっていると言えそうだ。

 興味深いのは業種間の違いである。「経験・能力・知識」を考慮する割合は、情報通信業では81.3%、学術研究・専門・技術サービス業では75.5%と高い。情報通信業では前職賃金も50.7%に達する。ITエンジニアなどは企業を越えてスキルの市場価値が比較しやすいため、経験・能力に加え、転職市場で形成された前職給与も無視しにくいと考えられる。

 一方、製造業では「年齢」が52.4%と全産業で最も高い。年齢や勤続を一定程度反映する既存の賃金体系との整合性を意識している企業が多いことがうかがえる。医療・福祉では「免許・資格」が62.0%と突出しており、看護師など資格と担当業務が直接結びつく職種の特徴が表れている。建設業でも資格は41.1%である。これに対し、卸売・小売業では「賃金の世間相場」が40.1%、生活関連サービス・娯楽業では42.2%と高い。採用市場の需給を強く意識せざるを得ない業種では、市場相場が重要な物差しとなっている。

 企業規模による違いも大きい。1,000人以上の事業所では、「経験・能力・知識」85.2%、「年齢」54.0%、「前職賃金」48.1%、「学歴」45.1%である。これに対し5~29人では、それぞれ56.6%、33.1%、24.4%、9.8%である。厚労省も、これらの項目は規模が大きくなるほど考慮割合が高くなると指摘している。

 労働政策研究・研修機構(JILPT)が2024年に実施したデジタル人材調査でも同じ傾向が確認できる。非IT企業でデジタル人材を中途採用している企業では、賃金決定要因として「能力(73.8%)」、「同一職務の経験年数・経験内容(67.9%)」が上位となった。その一方、「社内在職者との賃金バランス(47.6%)」、「前職の賃金(46.4%)」、「年齢(45.2%)」も半数近い。IT企業のIT技術者では、能力82.0%、同一職務の経験74.1%に加え、年齢53.2%、社内在職者との賃金バランス52.5%、前職賃金51.1%となっている。

 高度・希少人材だからといって市場価格だけで決めているわけではない。外部労働市場で競争できる水準と、既存社員との内部公平性の両方を見ていることがわかる。

 こうした調査から、中途採用者の賃金決定は、①ポスト・職務の価値と市場相場から賃金レンジを決める、②そのレンジの中で本人の経験・能力・資格を評価して位置づける、③最後に前職給与、本人希望、既存社員とのバランスを確認して調整する、というステップが望ましい。

 避けたいのは「前職が500万円だから530万円」といった前職給与への単純な上乗せである。前職企業の賃金政策まで自社に持ち込むことになり、同じ仕事をする既存社員との賃金逆転を招きかねない。アンバランスな賃金では採用された本人の居心地もよくない。その意味で、ステップ③のバランス調整は重要であろう。          

 



人事制度の構築・見直し、評価制度、労務管理、研修などについて、お困りのことがありましたら、
お気軽にご相談ください。

 過去記事は⇒ミニコラムもご参照ください。
 ご相談・お問い合わせは⇒お問い合わせフォームをご利用ください。
 

 
にほんブログ村 経営ブログ 人事労務・総務へ  にほんブログ村 士業ブログ 中小企業診断士へ 

にほんブログ村に参加しています。