2025/7/13

異動時に必要な説明

 前々回、本コラムで取り上げた内閣人事局の「国家公務員の働き方改革に関する職員アンケート結果」に、もう1つ興味深いデータがあったので、今回はその点について紹介したい。

 どういうデータかというと、キャリア形成支援に関して、「必要と考えられる内容」と「職場での実施状況」とのギャップである。必要度が最も高く、かつギャップも最大であったのは、「内示や異動の際の趣旨説明」であった(必要度62.1%、実施度16.2%、ギャップ45.8ポイント)。これは、「内示や異動の際の趣旨説明」は職員のニーズが高いにもかかわらず、実際にはあまり行われていないことを示している。

 おそらく民間企業においても、同様の傾向があるのではないかと思う。特別なケースを除けば、多くの場合は上司から一言、期待を伝える程度で済まされているのが実情だろう。

 一昔前であれば、「異動は会社員の宿命」として、辞令は粛々と受け入れられていたかもしれないが、現代ではそうはいかない。将棋の駒を動かすような一方的な異動は、避けるべきである。

 人事異動は、単に辞令を通知するだけでなく、「なぜ異動するのか」「どのような期待があるのか」「会社としてどう支援するのか」を丁寧に伝えることが求められる。こうした説明により、社員の納得感や異動後の適応力が高まり、離職の防止にもつながる。具体的に説明すべき項目は以下のとおりである。

1. 異動の目的・背景
・組織再編や事業強化に伴う異動の必要性
・本人の成長機会の確保や能力開発の一環であること
 例:「今回の異動は○○部門の強化とあわせて、□□さんのこれまでの経験と将来の可能性を活かすためのものです」など。

2. 会社の異動方針・考え方
・全社視点での人材配置を基本とする異動方針
・定期的なローテーションによるスキルの多様化
・本人の希望や適性も可能な限り考慮
 本人の希望に沿わない場合は、適性を重視したものであることを説明する。例:「会社は、あなたのコツコツと粘り強く取り組む姿勢を高く評価しています。新しい部署でもその強みを活かしてほしい」など。

3. 本人への期待とキャリアへの位置づけ
・新部署での役割や期待する成果
・異動がキャリア形成のどの段階に位置づけられるか
 例:「チームを率いることで、管理職候補としての経験を積んでいただきます」、「希望するキャリアを実現するためには、営業の現場経験が不可欠です」など。

4. 配慮・サポート体制
・受入先でのフォロー(上司・先輩による支援、メンターの設置)
・必要に応じた引継ぎ期間や段階的な業務移行
・異動後のフォロー面談の実施(異動後1か月/3か月など)

5. 異動に関する相談窓口の案内
・異動に不安を感じた場合の相談先(人事、産業医、カウンセラーなど)

 これらは上司が説明するとともに、必要に応じて人事部門からの補足も行うとよい。また、異動先の上司が同席できれば、より効果的である。遠隔地であっても、オンラインでの対応は十分に可能だろう。

 本人は多かれ少なかれ不安を抱えている。特に、希望と異なる異動であれば、納得度はかなり低くなる。そのような前提に立ち、本人の経験やスキルに敬意を払いながら、背景や期待を丁寧に説明すべきである。「昭和の一方的な異動は、現代ではもはや許容されない」という認識が必要である。         

 


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