2019/3/18

改正労基法Q&A追加分~その1

 
 厚生労働省が示した働き方改革に伴う改正労働基準法Q&Aについては、1月15日、21日の本コラムにて紹介したところだが、今般、新たなQAを追加した更新版が同省のHPで公開された。
 
 追加分は、フレックスタイム制7問、時間外労働の上限規制21問、年次有給休暇20問、労働条件の明示の方法3問、その他1問の計52問と、元の全42問よりも多く、厚労省の気合いの入れ方が見て取れる。

 内容は改正点だけでなく、前提となるの運用ルールを説明するものも目立つ。たとえば、「中小企業の範囲」を改めて解説するなど、労働法規に詳しくない人でも実務に活用しやすいよう配慮が見られる。また、前版はあくまで“通達”であったことから、硬い役所言葉でわかりづらかったが、更新版は一般企業向けということで、「ですます調」の読みやすい記述となっている。

 さて、今回は追加分のうち、フレックスタイム制および時間外労働の上限規制について、特に重要そうなものを取り上げてみたい。内容は前回と同様、適宜編集を加えている。

1.フレックスタイム制

(問5)
 フレックスタイム制のもとで休日労働を行った場合、割増賃金の支払いや時間外労働の上限規制との関係はどのようになりますか?

(回答)
 フレックスタイム制のもとで休日労働を行った場合、その休日労働の時間は清算期間における総労働時間や時間外労働とは別個のものとして取り扱われ、3割5分以上の割増賃金率で計算した賃金の支払いが必要です。なお、時間外労働の上限規制との関係については、時間外労働と休日労働を合計した時間に関して、①単月100時間未満、②複数月平均80時間以内の要件を満たさなければなりません。

 上述したよう、改正法そのものというよりは基本のルールに関するQAである。フレックスタイム制では、以下問8まで同様のQAとなっている。

(問9)
 清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制において、清算期間の途中に昇給があった場合、清算期間終了時の割増賃金の算定はどのように行うのでしょうか?
 
(回答)
 割増賃金は、各賃金締切日における賃金額を基礎として算定するものであり、フレックスタイム制においても同様です。したがって、清算期間の途中に昇給があった場合は、昇給後の賃金額を基礎として、清算期間を平均して1週間当たり40時間を超えて労働 した時間について、割増賃金を算定することとなります。ただし、清算期間を1か月ごとに区分した各期間を平均して1週間当たり50時間を超えて労働させた時間については、清算期間の途中であっても、当該各期間に対応した賃金支払日に割増賃金を支払う必要があります。そのため、昇給後においては、昇給後の賃金額を基礎として割増賃金を算定することとなりますが、昇給前の賃金によって賃金計算が行われる期間がある場合には、昇給前の賃金額を基礎として割増賃金を計算して差し支えありません。

 1ヶ月超のフレックスの場合、その間に昇給することがありうるが、そのときの対応を示したもので、昇給後の賃金額を基礎とするとのことだ。では、万一降給した場合はどうなるかだが、同じロジックで降給後の賃金額を基礎とするという取扱いでかまわないだろう。
 
2.時間外労働の上限規制

(問24)
 時間外労働と休日労働の合計が、2~6か月間のいずれの平均でも月80時間以内とされていますが、この2~6か月は、36協定の対象期間となる1年間についてのみ計算すればよいのでしょうか?

(回答)
 時間外労働と休日労働の合計時間について2~6か月の平均で80時間以内とする規制については、36協定の対象期間にかかわらず計算する必要があります。なお、上限規制が適用される前の36協定の対象期間については計算する必要はありません。

 改正の重要ポイントで、労働時間管理については、労使協定で規制するものと個々の社員を規制するものとを区別する必要がある。複数月平均80時間以内というルールは個々の社員を規制するものであるため、36協定の対象期間に関係なく適用されることなる。

(問28)
 特別条項における1か月の延長時間として、「100時間未満」と協定することはできますか?
 
(回答)
 36協定において定める延長時間数は、具体的な時間数として協定しなければなりません。「100時間未満」と協定することは、具体的な延長時間数を協定したものとは認められないため、有効な36協定とはなりません。

 法定ぎりぎりまでの時間を定めたいとき、「100時間」とすると違法となるので、「100時間未満」と設定してしまいそうだが、これは認められないとのこと。そうした場合、「99時間59分」とするのも変なので、「99時間」とせざるを得ないかもしれない。

(問29)
 特別条項において、1か月についてのみ又は1年についてのみの延長時間を定めることはできますか?
 
(回答)
 1か月についてのみ又は1年についてのみ限度時間を超える延長時間を定めることは可能です。1年についてのみ限度時間を超える延長時間を定める場合には、1か月の限度時間を超えて労働させることができる回数を「0回」として協定することとなります。これは、臨時的な労働時間の増加の有無を月ごとに判断した結果を協定していただくためです。 なお、特別条項は限度時間(1か月45時間・1年360時間。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制により労働させる場合は、1か月42時間・1年320時間)を超えて労働させる必要がある場合に定めるものであり、1日の延長時間についてのみ特別条項を協定することは認められません。

 特別条項は、1か月と1年両方の延長時間を定めるものと思っていたが、どちらか一方だけでもよいとのこと。そういうやり方もあるのかと、ある意味感心するが、どちらか一方は限度時間に収めなければならないので、繁忙期が一時期に集中するような特殊な企業でない限り実際的でないと思われる。

(問32)
 副業・兼業や転職の場合、休日労働を含んで、1か月100時間未満、複数月平均80時間以内の上限規制が通算して適用されることとなりますが、その場合、自社以外での労働時間の実績は、どのように把握することが考えられますか?
 
(回答)
 厚生労働省では、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定しており、ガイドラインにおいて、就業時間の把握については、労働者からの自己申告により副業・兼業先での労働時間を把握することが考えられると示しています。なお、転職の場合についても自社以外の事業場における労働時間の実績は、労働者からの自己申告により把握することが考えられます。

 ここで注目したいのは、転職時の労働時間の通算である。転職した際にも、1か月100時間未満、複数月80時間以内のルールが適用されるとの見解を示している。これを厳格に適用すると、転職前に労働時間が多かった人が退職後すぐに就職した場合、ほとんど残業ができないという事態も起こりうる。おそらく当面は気にする企業はないと思われるが、コンプライアンスに過敏な企業では、転職者の労働時間をチェックするところも出てくるだろう。どこまで厳格な運用が求められるようになるのか、今後の動向に注意したい。

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