2018/12/16

勤務間インターバル制度設計のポイント

 
 労働時間等設定改善法が改正され、2019年4月から終業時刻と次の始業時刻との間に一定時間の休息を確保する勤務間インターバル制度が努力義務となった。
 導入する企業も増えると思われるが、導入例は少なく(平成30年1月時点で1.8%)、実際にどのような内容を検討すればよいか悩んでいる企業も多いだろう。

 参考となるのは、12月4日に行われた厚生労働省「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」で示された報告書案である。その中に“勤務間インターバル制度導入に向けたポイント”という項目があるので、これを確認してみたい。

 まず、報告書案では、制度導入の手順として次の5つのステップを示している。

ステップ1:制度導入の検討
ステップ2:制度設計の検討
ステップ3:試行期間
ステップ4:検証及び見直し
ステップ5:本格稼働(制度化)
 
 このうち、今回のテーマとなるのは「ステップ2:制度設計の検討」で、ポイントとして8つの項目を挙げている。

(1)対象者
 まずは対象者で、
①全社員とする
②管理職を除く全社員とする
③交替制勤務を行っている社員に限定する
 といった選択肢を示している。基本的には全社員を対象とするのが望ましいだろう。

(2)インターバル時間数(休息時間数)
 次項(3)とともに制度の核となる部分である。
①一律に時間数を設定する方法(8、9、10、11、12 時間など)
②職種によって時間数を設定する方法
③義務とする時間数と健康管理のための努力義務とする時間数を分けて設定する方法
 などがある。企業の実態に応じて選択する必要があるが、まずは一律方式が基本となるだろう。
 時間はどれくらいが適当かといえば、実例をデータで見ると、やや古いが平成27年度の「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業」によると、「7時間超8時間以下」が28.2%で最も多く、次いで「12時間超」15.4%、「11時間超12時間以下」12.8%となっている。ただ、現在の考え方からすれば、睡眠時間や生活時間の確保の観点からできれば11時間以上、最低でも8時間以上を目指したいものだ。ちなみにEUでは原則11時間以上としており、日本でもこれを基準とする企業が最近は多い。なお、通勤時間はインターバル時間数に含めるのが一般的である。

(3)休息時間が次の勤務時間に及ぶ場合の勤務時間の取扱い
①休息時間と次の所定労働時間が重複する部分を働いたものとみなす方法
②次の始業時刻を繰り下げる方法
 の2つが主な方法である。 ①の場合、実際に勤務を行っていなくても「働いたものとみなす」のだから、賃金控除をしないのが原則となる。事実上の時間単位の有給休暇ということだ。なお、完全月給制でなければ、賃金控除をしても法的に差支えはないだろう。
 ②の具体的方法には、
ア.当日の終業時刻を繰り下げる方法
イ.終業時刻はそのままとし、勤務時間が短くなった場合でも給与支払い対象とする方法
ウ.フレックスタイム制が適用されている労働者においては労働時間を調整する方法
 などがある。イは結果として上記①と同じとなる。激変を避けるために、まずは②アが妥当といえるかもしれない。

(4)適用除外
 年末年始や年度末等の定例的な繁忙期や、緊急の業務などの特別な事情が発生した場合に備えての仕組みである。このとき、月3回までは適用除外できるといった決め方もある。報告書案では、特別な事情として下記のものを示している。
・ 重大なクレーム(品質問題・納入不良等)に対する業務
・ 納期の逼迫、取引先の事情による納期前倒しに対応する業務
・ 突発的な設備のトラブルに対応する業務
・ 予算、決算、資金調達等の業務
・ 海外事案の現地時間に対応するための電話会議、テレビ会議
・ 労働基準法第33 条の規定に基づき、災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合
 基本的には、最初から適用除外は設けず、実際に試した上で支障がある場合に設定すべきと思う。

(5)労働時間管理の方法(出退勤時刻を含めた適正な把握方法)
 勤務間インターバル制度のために特別のやり方をしなくても、通常の労働時間管理と同様に行えば問題ないだろう。

(6)勤務間インターバル制度実施当日の企業内手続
 特に手続きをしなくても問題はなく、実際、手続き不要の企業が多いようだ。設けるとすると、時間外勤務の手続きと連動させるのがよいだろう。

(7)制度の拘束力
 休息時間を確保できなかったとしても、特段の事後措置は設けていない場合が多いとのことだ。ただし、制度の形骸化を防ぐために、確保できなかった理由の検証は必要である。

(8)その他
 突発的事情により休息が確保できなかった場合の取扱いや、就業規則、労働協約などの根拠規定の整備についてである。

 以上の8項目を中心に制度設計を考えてみてほしい。ただ、「考え過ぎないこと」にも留意したい。労使間でしっかりと話し合うことは重要だが、運用してみないとわからないことも多いはずだ。問題点は試行期間を経て見直しをすればよい。“努力義務”であることを逆手に取り、とにかくやってみるという姿勢が大切と思う。


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