2024/11/10

ジョブ型人事と降格

 ジョブ型人事には、社員の自律的なキャリア形成や専門人材の育成・活用、若手社員の抜擢といったメリットがある一方、長年、メンバーシップ型人事になじんできた日本企業には、運用上の難しさがある。問題の1つが、期待される役割を果たせなかった社員の降格、それに伴う賃金の引き下げである。

 従来の職能資格制度であれば、ポストを外れても、資格・等級はそのまま維持し、専門部長・課長といったあいまいな役職をあてがうことで、賃金ダウンを避けられた。

 ところが、ポスト(ジョブ)と等級・賃金が明確にリンクするジョブ型人事では、ポストを外れる、もしくは下位のポストに移行すれば、等級は降格となり、賃金も下がるのが原則である。ただし、この原則を貫けば、社員のモチベーションダウンや訴訟リスクを抱えることになる。これにどう対応するかは、ジョブ型人事を有効に機能させるための大きな課題となる。

 実際にジョブ型人事を導入した企業ではどうしているのか、国が8月に示した「ジョブ型人事指針」の事例を見てみよう。

 指針では、20社の事例を掲げているが、ほとんどの企業で社員のパフォーマンスにより降格(等級引き下げ)があるとしている。

 そして、等級引き下げの際の取り組みとして、多く挙げられたのは以下のものである。

①PIP(Performance Improvement Program)の実施
 ローパフォーマーに行動改善を促す取り組みである。パフォーマンスが悪いからと言って直ちに降格させるのではなく、一定の指導期間を設けるものだ。パナソニック・コネクトでは、次のような取り組みをしている。

・担うポジションの職責・成果の期待値と個人の成果を比較してギャップを把握し、支援内容を各人ごとに検討する。
・期間は3か月であり、一定の指標を定めて具体的な計画を策定する。
・高頻度の1on1での対話を行い、成果を確認する。

 ただし、PIPのやみくもな実施は避けるべきという指摘もある。

PIPを実施するにあたっては、普段の評価手続において厳正な評価を実施し、ネガティブなフィードバックも躊躇せずに伝える必要がある。そうしたコミュニケーションを経ずして突然 PIP の実施を言い渡されても、社員としても納得できず、課題認識やパフォーマンスの改善にはつながらない(オムロン)。
 
 PIPは手間がかかるものであり、上司の負担も大きいので、PIP対象となる前に普段の1on1等によりパフォーマンス改善を目指すのが本筋ということだ。また、1on1を通じて降格の予見可能性を与えていく(アフラック生命)という指摘もあった。

②激変緩和措置
 降格に際して、もう1つ必要なのは報酬への配慮である。これも多くの企業で指摘されていた。主な事例は以下の通りである。

・変更後3年間、減額幅を一定範囲に抑える緩和措置(富士通)
・減額幅の上限を管理職は5万円、非管理職は1.5万円とする(オムロン)
・毎年5%以内の減額となるよう設定(リコー)

③その他の取り組み
 他にも以下のような取り組みがある。ポストオフへの納得性を高め、モチベーション低下を防ぐ取り組みといえる。

・他ポストへのチャレンジ奨励(富士通、ソニーなど)
・リスキリング支援(アフラック生命)
・キャリアカウンセラーの紹介(富士通)

 興味深いのは、管理職の任期を原則 4 年とするテルモの取り組みである。パフォーマンスが高い社員以外は交代をデフォルトとすることで、ポストオフに対する抵抗感を減らすことができる。

 このように指針では、各企業の取り組みが記載されているものの、「降給・降格に関しては、厳しい運用はできておらず、降格については明確な基準を整備できていないのが実態(三井化学)」というのが正直なところかと思う。有能な若手の抜擢と裏腹に、ポストオフとなった社員の処遇をどうするか、試行錯誤は続くとみられる。      

 


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