7月28日、政府の「新しい資本主義実現会議」からジョブ型人事の事例集、「ジョブ型人事指針」が公表された。指針では、「日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める」としている。
なせジョブ型人事が日本企業の競争力維持に必要なのか。事例集は、昨年5月に同会議が「三位一体の労働市場改革の指針」というのを打ち出したのが発端である。三位一体の労働市場改革とは、「リ・スキリングによる能力向上支援」「個々の企業の実態に応じた職務給(ジョブ型人事)の導入」「成長分野への労働移動の円滑化」の3つである。
日本経済の成長のためには、成長分野への労働移動の促進が必要であり、そのためには、リスキリングによる各人の能力アップが必要であり、そのために仕事に求められる能力要件等を明確にするジョブ型人事が必要、というロジックである。
まずは前提となるジョブ型人事の導入が進むよう、事例集を作成したということだ。当初は昨年末に作成するとのことだったが、延び延びとなっていた。ただ、岸田首相が9月で退任することとなり、「新しい資本主義」というキシダノミクス用語も使われなくなることが予想される。事例を出すなら今しかないということだろう。
さて、肝心の事例の中身だが、無償で入手できる事例集として十分に価値があるものと思う。230ページ以上に及ぶ大作で、書籍にすれば3000円くらいで販売できそうだ。
もちろん、企業の実態に合わせて適宜言葉を修正すれば使用できるほどの簡便性はないものの、ジョブ型人事の枠組みやある程度具体的な仕組みを検討するうえで、十分に参考になると考えられる。
事例集では20社の事例が掲載されており、それぞれ、
①ジョブ型人事の導入目的、経営戦略上の位置付け
②制度の骨格(導入範囲、等級・報酬・評価制度等)
③雇用管理制度(採用、人事異動、キャリア自律支援、等級の変更等)
④人事部と各部署の権限分掌
⑤導入プロセス(労使コミュニケーション等)
をまとめている。各社、同じ構成で整理されているので、関心のある項目について内容を比較できるのが実務的でよい。
ところで、ジョブ型人事の設計で最大のポイントなるのは、職務記述書をどう作成するかだろう。事例集をざっと眺めたところ、全職務について作成をする企業もあれば、管理職だけ、あるいは特定部署だけというところもある。内容も細かに記述する企業もあれば、ざっくりと記述する企業もある、というように様々である。
欧米式の本来のジョブ型人事であれば、全職務に詳細に作成しなければ用をなさない。必ずしもそうでないところが、良くも悪くも日本のジョブ型人事の現状といえる。換言すると、今はまだ日本に適したジョブ型を模索している段階である。試行錯誤は当分の間、続くと考えられる。