2024/3/3

定年制廃止の妥当性

 経済協力開発機構(OECD)が1月11日に公表した報告書で、日本の労働力確保のための改革案の1つとして「定年制の廃止」を提言した。

 厚労省の「令和5年高年齢者雇用状況等報告」によれば、定年制を廃止している企業は3.9%で、ほとんどの企業は定年制を設けている。現時点では、日本企業にとって定年制はなくてはならないものとなっている。

 先進国では、年齢による差別は禁止というスタンスのもと、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアなどで定年制が禁止されている。フランスやドイツでは定年制は存在するが、年金受給年齢になれば労使合意のもとで退職させることができるというもので、日本のように一定年齢で労働者が一斉に退職を強いられる仕組みではない。

「このような世界標準に日本も合わせてみては?」との提言だが、仮に定年の定めが禁じられたら、日本企業は大混乱に陥るのは間違いない。

 とはいえ、一企業にとって、定年制廃止は合理的な選択となるかもしれない。頭から否定をせずに、定年制廃止の妥当性を考えてみよう。まず、そのメリットに次のものがある。

①経験豊富な労働力を維持できる
②社員の多様性が高まる
③高齢社員の生活の安定と充実によりモチベーション向上が期待できる

 一方でデメリットは以下のものである。

①若手の雇用機会や昇進機会が減少する
②人件費の増大につながる
③健康・労災リスクが増大する

 この中でも最大のリスクは①である。言葉を換えると、組織の新陳代謝が滞る危険性が高まるということだ。

 70歳以降も働きたいというニーズは高い。ただ、高齢社員の体力・能力・意欲は様々である。60歳超でも大きな差があるのに、70歳超となればさらに大きな差がつくのは想像できる。中には報酬とパフォーマンスがまったく釣り合わない社員も出てくるだろう。

 そのような社員であっても、自分から退職すると言い出さないかぎり雇い続けなければならない。もちろん退職勧奨はできるが、退職の無理強いはできないし、勧奨する側のストレスもある。解雇となれば、負担はもっと大きくなる。

 ②に関しては、たとえば60歳時の賃金をそのまま維持するようだと、人件費増大のリスクは高まる。といって一律に引き下げてしまうと、現在の定年再雇用と同様に低いモチベーションで働き続けることになる。その人に応じた待遇を提供できるかがカギだが、欧米のように職務に応じた賃金が定まっていない日本では、なかなか難しいのが実情だろう。

 結局のところ、65歳(あるいは70歳)以上の高齢社員の人数や個別能力が具体的に想定でき、高齢社員に応じた処遇が可能な中小企業でないと難しいと思われる。規模で言えば社員数100人以下だろう。

 実際、先に掲げた定年制廃止の割合を企業規模別にみると、21~300人が4.2%に対して、301人以上では0.7%である。大企業で定年制廃止しているところはほとんどないようだ(大企業では2021年にYKKが実施して話題となった)。

 いざとなったら経営者自らが引退を促し、また社員もそれを理解してくれるくらいの信頼関係を築ける企業規模でなければ、定年制廃止は難しいのではないかと思う。    

 


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