人手不足が大きな問題となっている。日本商工会議所が9月28日に発表した「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」結果では、「人手不足」との回答が約7割(68.0%)で、2015年の調査開始以降、最大となったとのことだ。
人手不足の解消には人材確保が求められるが、同時に既存社員の流出防止も重要である。いや、多くの費用や時間をかけても思うようにいかない人材確保よりも、既存社員をいかに引き留めかの方に注力すべきかもしれない。
こうした中で、「社員が自社に愛着をもっているか」「貢献意欲は高いか」という会社に対する社員の“エンゲージメント”の重要性が高まっている。エンゲージメントの高い社員であれば、退社リスクは低くなると考えられるからだ。
エンゲージメントに関する調査(経団連「2022年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査」)を見ると、管理職と一般職では管理職の方が高い。また、一般職であっても年齢が高いほどエンゲージメントは高い。普通に考えれば、勤続期間が長いほど、会社への愛着は高まると思うので、これは当然のことといえる。
言葉を換えると、若手や中堅クラスのエンゲージメントは相対的に低いことになる。その一方で、このクラスは労働市場で人気があり、その分、退職リスクは高い。企業としては、このクラスの退職は特に痛手となるので避けたいはずだ。
エンゲージメントは仕事に対するモチベーションにも影響を与える。一般にエンゲージメントを高めることで、モチベーションの向上が期待できる。もっとも、常にそれが言えるわけではない。
モチベーションは短期的あるいはミクロ的なことで上下する。このため、変化しやすい。たとえば、ちょっとした仕事のミスでモチベーションは低下する。また、上司から一言誉められることで向上したりもする。
一方、エンゲージメントはもっと長期的あるいはマクロ的な要因で変動するので、変化しにくい。このため、低い人を高くするのは時間と手間がかかるが、逆に、高い人は、少々嫌なことがあっても、一時的にはともかく、大きく低下することはない。
したがって、モチベーションは高いけれど、エンゲージメントは低い。逆にモチベーションは低いけれど、エンゲージメントは高いといった状況もありうる。
エンゲージメントが変化しにくいのは、その人の価値観や性格に左右されるからでもある。自分の価値観・性格に合わない会社なら、たとえ給与や人間関係が良くてもエンゲージメントは高まりづらい。たとえば、「考えるよりも行動する」ことが重視される会社で、じっくり考えて行動するタイプの社員のエンゲージメントは高まらない。
したがって、まずは自社に合うタイプの社員を雇うのがエンゲージメント向上の最重要課題となる…が、それでは身も蓋もないし、タイプが合ってもエンゲージメントの低い人はいるので、向上のための施策を考えなければならない。それにはエンゲージメントを高める要素を整理しておく必要がある。これについては次の機会に整理をしていきたい。