2023/9/10

懲戒制度の実態

 先日、労務行政研究所から「懲戒制度に関する実態調査」結果というのが発表された。30のケースについて、企業がどのような処分を下したかを調査したものである。

 企業が懲戒制度を適用するときに最も頭を悩ますのは、最終的にどの処分を科すかだろう。その際、「一般的にはどうか」が気になるはずで、本調査はその参考となるといえる。

 30のケース別判断をみると、企業によってそれほど処分に差異のないものがある一方で、大きな差異のあるものがあることがわかる。

 たとえば、売上金の使い込み、飲酒運転、無断欠勤などは、諭旨解雇や懲戒解雇など、多くの企業が重い処分を科している。また、テレワーク中の無断中抜け、カード破産などは、処分の対象としないものや、戒告・けん責などの軽い処分が多くを占める。

 他方、部下に対する暴言等のパワハラ、メール・チャット等でのセクハラ、サーバーデータの改ざん、社員割引購入商品や備品のネット販売などは、企業によって処分が大きく分かれている。たとえば、社員割引購入商品や備品のネット販売は、戒告・けん責が25.9%、降格・降職27.4%、懲戒解雇31.0%と処分にバラツキがある。この点は業種や職位、行為によって得た利益額の大きさなどによって差が出たと思われる。

 もう1つ気づくのは、厳罰化傾向が高まっていることだ。調査では前回2017年の数字も示されているが、全般に今回の方がより厳しい処分を科している。

 特にハラスメントに関して厳しくなっており、懲戒解雇の数字は、パワハラ17.0%→30.1%、セクハラ20.5%→31.3%、マタハラ12.9%→24.5%と前回調査に比べて高くなっている。ハラスメントを許さないとする社会の傾向を現わしているといえそうだ。

 調査では、解雇における退職金の支給状況も示している。懲戒解雇のときに「全く支給しない」は 63.2%と6割以上を占めるのに対し、「一部支給する」は1.8%、「全額支給する」はわずか0.4%である。「退職金制度はない」が27.9%あるので、退職金制度がある企業のほとんどが「全く支給しない」であると考えられる。

 このように大半の企業が懲戒解雇の場合は退職金不支給としており、世間もそれをごく当たり前と認識しているようだが、判例では結構高いハードルがあり、必ずしも懲戒解雇=退職金ゼロとはならない。「永年の勤続の功労を抹消させてしまうほどの背信行為がない限り、退職金の不支給は許されない」というのが判例の考え方だからだ。

 具体例を挙げると、電車内で痴漢行為に及んで逮捕された私鉄会社社員が、過去にも同行為で複数回逮捕されたことがあるのが発覚して懲戒解雇・退職金不支給となったが、これを不服として訴えた裁判がある(小田急電鉄事件)。

 一審は会社側が勝訴したものの、二審の東京高裁はこれを覆した。「業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要である」として退職金の3割支給(約280万円)を命じたのである。

 懲戒解雇の案件が発生した際には、たとえ退職金を不支給とする規定があったとしても、それが妥当であるかをしっかり検討しなければならないということだ。       

 


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