2023/1/8

専門業務型裁量労働制の改正

 専門業務型裁量労働制が改正される見込みとなった。12月27日に厚生労働省で開催された第187回労働政策審議会労働条件分科会で、「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」という報告がなされ、その中に専門業務型裁量労働制の改正案が盛り込まれた。

 ポイントは次の2つ。

①専門業務型の対象に、銀行または証券会社において、顧客に対し、合併、買収等に関する考案及び助言をする業務を追加すること
②これまで企画業務型のみの要件とされていた労働者同意や同意撤回手続きを、専門業務型にも適用すること

 ①に関して、対象業務の追加は2003年の「大学における教授研究の業務」以来、約20年ぶりとなる。この間、社会のデジタル化で仕事の種類も進め方も大きく変化したと思うが追加・見直しはなかった。それだけ、労働者側の裁量労働制に対する反発が強かったいといえる。そもそも、対象業務の拡大は、2018年の働き方改革法案に盛り込まれる予定であったが、データの不備を批判され、先送りとなった経緯がある。

 専門型裁量労働制の適用労働者の割合は2021年1月時点で1.2%とごく少数である。今回追加された対象業務もかなり限定的なので、適用者がそれほど増えるとも思えない。同時に検討された「事業運営事項に関する企画・立案・調査・分析のPDCAを裁量的に繰り返す業務」は、M&A業務に比べれば対象者が多いと思われるが、今回は見送りとなった。

 ②に関しては、2021年の厚労省「裁量労働実態調査」によると、専門型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場のうち、労働者本人の同意を適用要件としている事業場は46.3%である。すでに半数近くが本人の同意にもとで適用しているということだ。

 2022年7月に示された厚労省「これからの労働時間制度に関する検討会報告書」では、本人同意のある専門型適用労働者の方が、実労働時間が週 60 時間以上となる確率が低く、健康状態がよくない・あまりよくないと答える確率も低くなっていることを指摘している。これを受けての改正と考えられる。

 改正は2024年予定とのことで、今後、①の対象業務拡大をめぐって論戦が繰り広げられることになるだろう。使用者側から見ると、②は①を通すためのバーター案ともいえる。労働者側すると、①は今後のさらなる拡大の第1歩と映るかもしれない。

 裁量労働制が適用されている労働者の満足度の割合は、先の「裁量労働実態調査」では8割を超えている(「満足している」41.8%、「やや満足している」38.6%)。もっとも、労働時間という最重要の労働条件に係る問題だけに、残りの2割弱の不満組をなおざりにするのは妥当ではない。今後の展開に注目しておきたい。     

 


 過去記事は⇒ミニコラムもご参照ください。
 お問い合わせは⇒お問い合わせフォームをご利用ください。

にほんブログ村 経営ブログ 人事労務・総務へ

にほんブログ村 士業ブログ 中小企業診断士へ
 

PVアクセスランキング にほんブログ村
にほんブログ村に参加しています。