2022/11/6

休業から復帰した社員の降格

 従業員が私傷病で休業し、傷病が治癒して復帰する(あるいは復帰した)ものの、元の資格等級・役職での職務遂行は困難というケースがある。このような場合に、社員の合意を得て、降格(資格等級の引き下げ)・降職(役職の引き下げ)ができるだろうか。

 役職の任用については、企業の人事権の範囲内とされ、法令違反や不当な理由によるものでない限り、広範な裁量権が認められている。従って、このようなケースで役職を引き下げるのは問題ないといえるが、問題は役職と資格等級がリンクしていて、資格等級の引き下げ、すなわち降格も伴う場合である。降格となれば、通常、賃金も下がることになる。つまり、社員の合意があれば不利益変更ができるかという問題でもある。

 労働契約法第8条では、労働者と使用者との合意により労働条件を変更できるとしている。もちろん、法令や労働協約、就業規則の定めを下回る労働条件はダメだが、降格・降職に伴う賃下げであれば、最低賃金法や賃金規程に定められた範囲内で新たな賃金を設定することになるはずなので、これについてはクリアできると考えられる。

 ということで、新たな資格等級、役職、賃金を示した同意書を作成し、それにサインしてもらえばOKといえそうだ。

 表面的にはそれでよいが、単に同意書にサインをもらうだけでは合意があったとみなされない場合がある。この点、判例は使用者側に厳しく、労働者側に立った判断を下しているケースが多い。一言でいえば、社員が「自由な意思」に基づいて合意をしたことが明白でなければならない。

 そのための必要事項として、降格・降職の同意を求める際には以下の3点に留意しなければならない。

 1つ目は、不利益に関して十分な情報提供と説明をすることである。具体的には以下のものである。後で言った言わないの水掛け論とならないよう、書面化しておくのが望ましい。
・降格・降職が必要な理由
・変更が一時的なものか恒常的なものか
・給与引き下げ額の根拠
・賞与や退職金など、その他報酬への影響
・病状がよくなった場合や元の業務に戻った場合の取り扱い
・勤務場所の変更の有無
・その他、降格・降職による影響、等

 2つ目は、サインしなければ解雇になる等の言動をしないことである。強迫に基づく意思表示は取り消しできるので、合意が無効となってしまう恐れがある。

 3つ目は、検討の時間を十分に与えること、言葉を換えるとその場で無理にサインを求めないことである。できれば1週間程度の検討期間を設けたい。       

 


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