10月1日から施行された改正育児介護休業法では、産後パパ育休の創設など、男性の育休取得促進が主眼の1つとなっている。裏を返せば、男性の育休取得が思うように進んでいないということでもある。
厚生労働省の2021年度雇用均等基本調査によると、男性の育休取得率は13.97%で、過去最高ながらも前年度比1.32ポイント増にとどまっている。女性は85.1%なので、その差は歴然としている。
先日、ある中小企業の経営者に、男性から育休の申し出があったらどうするかと訊いたら、「断りはしないが、正直、取得されると業務が回らなくなるので困る」とのことだった。
中小企業では、その人にしかできない仕事が多くあり、長期不在となると業務がストップしてしまうのである。「男性社員はそれがわかっているので誰も取ろうとしない」と経営者は付け加えた。男性の取得は想定外であり、“許容されない”のが暗黙の了解となっているのである。
9月21日に発表された日本商工会議所・東京商工会議所の「女性、外国人材の活躍に関する調査」 でも、男性の育児休業取得促進に関する課題として、「専門業務や属人的な業務を担う社員の育休時に対応できる代替要員が社内にいない」(52.4%) 、「採用難や資金難で育休時の代替要員を外部から確保できない」(35.7%)がトップ2となっており、業務が回らなくなることが主要な問題であることを示している。3番目も「男性社員自身が育児休業の取得を望まない」(28.8%)で、上記の“暗黙の了解”が背景にあることがうかがえる。
もう1つ、9月28日に公表された明治安田生命「子育てに関するアンケート調査」でも、「育休を取得していない理由」として、「給与が減少する等、金銭的な面で取得しにくかった」(21.0%)に次いで、「利用するための職場の理解が不足している」(19.3%)、「長期職場を離れ、職場に戻る際の周囲の雰囲気に不安がある」(14.4%)が挙げられている。経済面以外に、業務が回らなくなって職場に負担をかけることへの不安が大きいことが示されている。
このように特に中小企業では、男性の育休取得がかなり難しいのが現状なのだが、だからこそ、チャレンジのし甲斐もある。
大きなメリットとして、1つは採用面や取引面でのアピールである。男性育休が進んでいるのでれば、ホワイトな職場環境であるとのイメージが高まる。当の男性だけでなく、女性にも好印象を与えるだろう。また、新卒者だけでなく、ブラックな環境に嫌気がさした転職希望者にもアピール材料となるはずである。さらに、サプライチェーン等での人権重視が高まっている今日、企業間取引においても、そのようなホワイトさは重要な要素となり得る。
もう1つ、取得する社員のモチベーション面でのメリットもある。上記明治安田生命のアンケートでは、育休を取得した男性の約4割が「モチベーションが上がった」と回答している。その理由として、「子どもの世話を通じ仕事も子育ても頑張ろうと思ったから」(58.9%)、「福利厚生が整っていていい会社だと思った」(21.4%)などが挙げられている。
2023年度から、1,000人以上の大企業には取得率の公表が義務づけられる。「中小企業には関係ない」で片付けず、自ら堂々と公表できるよう、大企業以上の取得率を目指してみてはいかがだろうか。