どの分野でもそうだが、人事労務管理の用語にも似たような言葉がある。一般の社員はもちろん、人事部門にいる人でも、本来の意味とは違った使い方をするケースをたまに見聞きする。ここでは、よく見られるものを5つ指摘してみたい。
1.昇格と昇進
×:Aさんは課長に昇格した。
○:Aさんは課長に昇進した。
「昇格」は資格や等級の上昇であり、「昇進」は役職の上昇である。普段の会話の中で混同するのは問題ないが、昇格要件を定めるときなど厳密な定義が必要な場合は、正確に用いるようにしたい。なお、資格・等級の下降は「降格」、役職の下降は「降職」と呼ぶ。
2.規程と規定
×:通勤手当については、給与規程の第5条に規程がある。
○:通勤手当については、給与規程の第5条に規定がある。
規程は全体を指し、規定は個々の条文を指す。もし、タイトルが「給与規定」となっているのなら、「給与規程」とするのが正しい。
3.振替休日と代休
×:この前の日曜日に出勤した分は、来週の水曜日に振替休日を取ってください。
○:この前の日曜日に出勤した分は、来週の水曜日に代休を取ってください。
振替休日は「あらかじめ休日と労働日を交換すること」であり、代休は「休日に労働をさせ、後日に休日を与えること」である。事前手続きを行なうかどうかがポイントとなるので、休日出勤をした後で、振替休日を取得することはできない。休日出勤をした事実は消えないということだ。このため、代休の場合は休日労働割増賃金が発生するが、振替休日の場合は、当初休日であった日は労働日となるので発生しないことになる。
4.給与(給料)と賃金
×:作業員の給与は時給1500円です。
○:作業員の賃金は時給1500円です。
日本では2つを区別していないが、欧米では別物とされる。簡単にいえば、「給与(Salary)」はホワイトカラーに月給や週給で支給するもの、「賃金(Wage)」はブルーカラーに時給や日給、出来高給で支給するものである。もっとも、日本で2つを使い分けている企業や人はほとんどいないだろう。筆者も特に意識していない。
5.問題と課題
×:最近、若手の退職者が増えていることが課題となっている。
○:最近、若手の退職者が増えていることが問題となっている。
最後は人事用語というよりは、広くマネジメント、さらには日常的に使われる言葉だ。本来、「問題」とは、あるべき姿に比べて何らかのギャップが生じている状態を意味し、「課題」は問題を解決するための取り組みを意味する。記述の仕方でいえば、問題は「○○ができていない」「××が不足している」などマイナス表現となり、課題は「○○に取り組む」「××を改善する」などプラス表現となる。
以前から混同して使われていたが、近年、特に顕著になってきたように思う。典型的なのは「課題解決」という言葉で、「問題解決」よりもこちらが一般的になってきており、政府・行政機関、民間企業だけでなく、マスコミ報道などでも広く目にする。もしかすると、「問題」では、非難・詰問しているように聞こえるので、「課題」という少しぼやかしたソフトな表現が好まれるようになったのかもしれない。