サントリーホールディングスの新浪剛史社長が45歳定年制を提言したことが話題となった。ネットのコメントなどでは、どちらかと言えば批判の声の方が多いようだ。その中には、「導入をしたいのなら、まず自社でやればよい」という意見があった。気持ちはわかるが、高年齢者雇用安定法で定年年齢は60歳以上と定められているので、サントリー社が勝手に定年45歳とするわけにはいかない。当然ながら新浪氏も、社会全体が45歳定年となることを念頭に置いた発言だろう。
それでは、定年60歳(※サントリーは65歳定年だが)を維持しながら、実質的に45歳定年とすることは可能だろうか。いわば疑似定年45歳制である。
新浪氏は釈明会見で、「45歳は節目で、自分の人生を考えてみることは重要だ。スタートアップ企業に行こうとか、社会がいろんなオプションを提供できる仕組みを作るべきだ。『首切り』をするということでは全くない」と説明したという(「読売新聞」2021年9月11日)。
この趣旨を踏まえ、45歳時点でこれまでの処遇をいったんリセットし、他社で新たなキャリアを築くなり、独立して一国一城の主になるなり、そして、自社に残るという選択もできるような仕組みであれば、設計できるかもしれない。
要は大手企業が定年を控えた社員に、定年後のライフプランづくりを研修等により実施するケースがあるが、これを前倒しで行うということだ。ただし、60歳定年でのライフプランはリタイア後の生活設計がメインテーマとなるが、45歳定年ではビジネスパーソンの後半部分でどう自己実現を図るかがメインとなる。
この疑似45歳定年制だが、単純に「45歳でどうするか選んでください」というだけでは、大半が自社に残るという選択をするに違いない。社外を選ぶことへのインセンティブと、会社に残ることのディスインセンティブを用意する必要がある。
まずインセンティブだが、これは早期退職優遇制度のケースと同様のものが考えられる。つまり、45歳で退職した場合の退職金の優遇のほか、起業や就活のための研修や情報提供、専門家のあっせん、有給休暇の付与などである。
ディスインセンティブとしては、処遇をいったんリセットすることだ。たとえば、給与は45歳以降の賃金は別体系とする。また、役職からは外れるといったことだ。もし、役職者として自社での継続を希望するのなら、会社が審査を行って、役職再就任の可否を判断する。役職者として継続できない場合は、給与は大きく下がることもありうる。
退職金については、退職するかどうかにかかわらず45歳時点で支給するという選択もある。当然ながら、継続勤務した分の退職金はなし、あるいはごくわずかである…。
というような仕組みが思いつくが、実際にこのようなことをやると、実質的な60歳未満定年ということで違法となる可能性がある。インセンティブは問題ないにしても、ディスインセンティブは不利益変更を伴うのでかなり困難である。仮に行うとすれば、もっとマイルドな内容にせざるを得ないだろう。そうすると45歳定年を選択する人は少なく、単なる早期退職優遇制度になってしまいそうである。
唯一可能性があるとすれば、これから創業する企業が、社員の了解をとったうえで入社してもらうようなケースだろう。若い人であれば45歳は遠い先のこと、実質45歳定年である分、それまでの処遇が普通の会社に比べてよいのなら、案外、魅力的に映るかもしれない。