2021/4/18

公務員65歳定年に

定年制
 
 国家公務員の定年が65歳に延長されることになりそうだ。4月13日、内閣は、国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げる「国家公務員法等の一部を改正する法律案」を国会に提出した。このまま成立すれば、施行は2023年4月となる。

 改正法案の主なポイントは次の4つである。

1.定年の段階的引上げ

 現行60歳の定年を段階的に引き上げて65歳とする。具体的には、2023年4月から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、2031年4月から65歳にする。

2.役職定年制の導入

 管理監督職の職員は、60歳(事務次官等は62歳)の誕生日から同日以後の最初の4月1日までの間に、管理監督職以外に異動させる。ただし、公務の運営に著しい支障が生ずる場合は、引き続き管理監督職として勤務させることができる特例を設ける。

3.60歳に達した職員の給与

 当分の間、職員が60歳に達した日後の最初の4月1日以後、俸給表の額に7割を乗じて得た額とする。このとき、役職定年により降任、降給となった職員は、異動前の俸給月額の7割とする。
 また、今後の検討事項として、①2031年度末までに60歳前後の賃金カーブがなだらかになるようにする、②施行日までに人事評価を見直す。

4.高齢期における多様な職業生活設計の支援

 60歳以後定年前に退職した者の退職手当は、当分の間、「定年」を理由とする退職と同じとする。
 また、定年前に退職した職員を、本人の希望により短時間勤務に就かせる「定年前再任用短時間勤務制」を導入する(任期は65歳まで)。

 以上である。これに関して、いくつか指摘したい。

 まず、今回の措置が65歳定年義務化の流れを作ることだ。
 現在、定年は60歳以上が義務で、定年を65歳以上としている企業は約20%でまだ少数派である(厚労省・令和2年「高年齢者の雇用状況」)。ただ、国としては65歳以上義務化を目指しているはずで、そのためには65歳定年が当たり前である社会にする必要がある。公務員という大勢力が65歳定年になることで、大きな流れを作りたいとの意向があるのは確かだろう。2年ごとに1歳ずつ引き上げる今回の移行措置も、義務化の際の“予行演習”と推測される。

 次に、60歳以降の賃金を7割としたことのインパクトである。
 企業が定年引き上げに消極的なのは人件費の高騰が懸念されるからだ。再雇用が主流なのは、正社員から非正規に変えることで、賃金を減額することができたからである。ところが、今回の措置は正職員のまま60歳から7割にするというものだ。「当分の間」という制限はあるものの、この措置のインパクトは大きい。定年を65歳以上に延長する際、60歳以降の賃金は「当分の間」7割程度でかまわないことにお墨付きを与えたことになるからだ。自分たちはやっておきながら、民間には「60歳以後、7割に減額するのはダメ」とは言えないはずだ。

 最後に、役職定年で降職となった職員の処遇である。
 たとえば、局長だった人がヒラの職員になるのか? なったとして、そのような部下を上司はマネジメントできるのかである。これは民間でも同じだが、民間の場合は、最終的に業績が数字で示されるので、シビアな処遇も受け入れられやすい面があるが、公務員はその点があいまいなので、本人はもとより周囲の職員も対応に苦慮するのではないだろうか。しかも、給与は管理職時代の7割なので、ある程度は保証されている。しばらくの間、“働かない高給取り”が組織を混乱させないかを危惧する。

 今回の法案は、昨年審議された法案から、野党が強く反対した検察幹部の定年などの規定を削除したもので、全会一致となるかはともかく、それほど混乱なく成立すると思われる(唯一もめるとすれば、「給与7割」と思う)。公務員だけでなく、民間企業にも大きな影響を与える法改正となるので、今後の動向を注目しておきたい。      
 

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