2021/4/11

日本と外国の雇用慣行の違い

外国人雇用
 
 厚生労働省が「外国人社員と働く職場の労務管理に使えるポイント・例文集」というのを出している。 外国人を雇用する企業向けに、労働条件等を外国人社員に説明する際、どういう説明の仕方をすれば分かりやすいか、どういった点に注意するとよいかについて、ポイントを示したものだ。

 本来は外国人に労働条件を説明するためのものだが、テーマごとに日本と外国の相違点を指摘しており、日本と外国の雇用慣行の違いという観点から見ても面白い。

 たとえば、賃金に関して、

・日本では、手当の意味や税金等の控除のしくみについて理解している方も多く、会社のルールを説明するだけで充分である場合も多いです。
・一方、外国人社員は、出身国と雇用慣行や社会制度が異なることから、①基本給と手当の関係が理解できない、②給料から税金などが控除される理由が理解できない、といったことが多く発生します。

 という具合だ。ちなみに、①の基本給の説明は以下のようになっている。

・「基本給」は、最初から決まっている給料です。毎月、同じです。

 これで納得してもらえるかどうかはともかく、われわれが当たり前に受け止めていることを、あらためて考える機会となるのは確かだ。他に、興味深い箇所をいくつかピックアップしてみよう。

●昇給・人事評価

・日本では、給料について周りの人と話すようなことは、あまりない。給料について同じ会社の人と話すことは、控えた方がよいと考える人もいる。
・一方、外国では、母国の文化によっては、給料について周りの人と話すことに抵抗がない人もおり、例えば給与明細をお互いに見せ合って、その内容が正しいかどうか確認することもある。そして、他の人との給料に差があると「なぜあの人より自分の給料が低いのだろう」など、昇給の理由について疑問を持たれることもある。

●労働時間

・日本では、時間ちょうどに業務を開始できるように、自発的に始業時間よりも早く出勤する人が多い職場もあり、出勤から始業までを労働時間と考えないことも多い。日本社会が遅刻にとても厳しい文化があるためと考えられる。
・一方、外国では、日本と生活ペースや文化が異なり、時間を守ることについての考えも異なる場合がある。働き始める時間については、例えば9時始業であれば9時に到着すればよいという理解をする人もいる。

 労働時間に関しては、「日本では、始業時間に厳しい一方で、終業時間にルーズな職場も見受けられる」という言い得て妙の指摘もあった。

●年次有給休暇

・日本では、有給休暇をたくさん使って休むことに引け目を感じる、また何かのときのために使わずとっておきたいといった考えを持つ人が多いためか、有給休暇取得率も、決して高いとはいえない。
・一方、外国人の中にはそう考えない方も多く、また母国の休暇制度が異なる制度のため、日本の有給休暇の使い方について、そもそも誤認している可能性もある。

 これに関し、外国人の方への説明例として、「有給休暇を取ることは、悪いことではありません。有給休暇を取っても、会社は、あなたが、がんばっていないと思いません」とある。外国人だけでなく、日本人社員にも言ってほしい言葉である。

●人事異動

・日本では、会社から一方的に人事異動の指示を受ける場合も一般的である。
・一方、外国ではポジションに応じて社員を採用することが多く、配置転換をするための人事異動の発令権を会社側が有していることは少ない。そのため、事前の説明なしに転勤等を命じられると、外国人社員にとって理解できず、離職につながるケースも考えられる。

●解雇

・日本では、社員を育てる意識が強いため、ポジションに合っていないと判断されても即座に解雇されることは少ない。
・一方、外国では、働いている人のポジションに能力が見合ってないと判断されたときなど、日本とは異なる観点で解雇になることもある。よって外国人の中には、急な解雇を不安に思う気持ちで勤務している方もいる。

 いかがだろか。日本では当たり前と思っていることが、外国では当たり前でないというのはよくある。雇用にも同じことが言え、新規一括採用やメンバーシップ型雇用など、日本の雇用慣行は世界的に見るとむしろ特殊なものと言われる。上記も同じく、どちらかといえば日本の慣行の方が少数派といえそうだ。とはいえ、その特殊性が徐々に薄まり、“世界標準”に近づきつつあるのも確かだと思う。

 もう1つ、上記を見て思うのは多様な視点でモノを見ることの重要性である。これまでの同質性の強い社会では説明不要だったことも、あらためて説明しなければならない。ただ、見方を変えると、新たな視点で物事を見られるということでもある。多様性への対応は面倒なことではあるが、絶対に必要なものと再認識したい。      
 

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