2019/11/3

転勤命令受け入れは社員次第?

 
 近年、「転勤」への風当たりが強い。かつて転勤命令は絶対であり、それに粛々と従うのはビジネスパーソンの勤めだった。

 転勤命令の有効性に関しては、よく知られた最高裁の次の判例がある(「東亜ペイント事件」昭61.7.14)。

・就業規則等に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、
・実際にこれに基づく転勤が頻繁に行われ、
・勤務場所を限定する合意がなされていない場合、
・会社は労働者の個別的同意なく転勤を命ずることができる。

 というものだ。もちろん、家族の介護等で労働者が著しい負担を強いられるような転勤命令は、権利の濫用として認められないものの、「基本的に転勤命令には従わなければならない」というのは、最高裁がお墨付きを与えたルールである‥‥はずだが、近ごろはそうでもないようだ。

 転勤命令の受諾権は社員に移行しつつあり、企業もそれを認めつつある。

 先日、公表されたエン・ジャパン社の「転勤に関する意識調査」でも、その傾向が如実に表れている。

 まず、転勤辞令が出た場合の対処法では、63%が「承諾する」(承諾する:13%、条件付きで承諾する:50%)と回答し、「条件に関係なく拒否する」(19%)、「わからない」(18%)と答えた。属性別に見ると、年代別ではそれほど違いはないが、男女別では女性の方が拒否の割合が高い。

 次に「条件付きで承諾する」と回答した人に、承諾条件を聞いたところ、上位3つは、
 
①「家賃補助が出る」(73%)
②「昇進・昇給がある」(56%)
③「転勤期間が決まっている」(55%)

 となっている。ちなみに、他の選択肢として挙げられているのは、「単身赴任手当がある」「やりたい仕事ができる」「転勤先を選択できる」というものだ。

 こういった結果を見ると、「何らかのメリットを付与するので転勤を受け入れてもらえないか」と会社からお願いする時代になりつつあることがうかがえる。無理強いをして、退職されても困るので、会社側の低姿勢の傾向はさらに強まるかもしれない。

 何しろ、「転勤は退職を考えるキッカケになりますか?」との問いに、6割以上が「なる」(なる:31%、ややなる:33%)と回答しているのだ。

 このように、今の時代、転勤に対する拒否反応はかなり強いが、肯定的な側面もある。転勤経験がある人に、転勤してよかったことを尋ねたところ、

①「人間関係が広がった」(55%)
②「自身の能力が向上した」(39%)
③「業務範囲が広がった」(37%)

 が上位となっており、社員のキャリア形成のうえで、転勤が重要なチャンスとなることがわかる。 さらに、4番目に「適応能力の獲得につながった」(28%)があり、実はこれが一番の転勤のメリットではないかと思う。

 今の環境を維持したいという気持ちはわかるが、「ゆでガエル」になってしまっては変化にうまく対応できない。転勤を機会に、環境を変えてみるというのも長い目でみれば本人のためになる可能性は高い。

 家族の事情等で転勤は困難というのならともかく、住み慣れた場所を離れたくないといった理由であれば、転勤のメリットも一考してみてはいかがだろうか。  
 

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